優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成はいつも武装している。

フル装備…というわけではないが、脛当てや肩鎧、胴を保護するいわゆる具足に身を包んで登城しているのだ。


桃は甲冑を見るとつい幽霊を想像してしまうので、三成が具足を装備して登城する時は極力視界に入れないようにしていた。


そして朝ごはんを食べた後、三成は馬を引きに馬屋へと行くと…

馬が…居ない。
秀吉から賜ったとびきりの軍馬で、慣れない者は扱いには少々手こずるのだが…


「?どこへ…」

「はーい、よしよしよし!」


――桃の声だ。

下手に近寄って蹴られたりしては大変なので、慌てて声のした屋敷の裏手側へと移動すると…


桃は普通に軍馬に騎乗していた。


「よく…乗れたな」


「へ?この子さっきからこっちばっかり見ちゃって進んでくれないんだけどすごくいい子だね!」


確かに、黒毛の愛馬は騎乗した桃を見たいのか首をよじって興奮気味に鼻を鳴らし、尻尾を振っていた。
上機嫌の時の合図だ。


「女子で馬に乗るとは…桃の時代では当たり前なのか?」


「ううん、馬に乗る人は少ないよ。私はお姉ちゃんに教えてもらってたから乗れるだけ!ね、ちょっと散歩に行っていい?」


…それはさすがに危険すぎる。
上機嫌とは言え、逆に興奮して暴走してしまうかもしれないので、三成は手綱を引くと桃の後ろにひらりと騎乗した。


「俺も行く。その辺だけで良いか?」


「ありがとう!わ、三成さんとデート!」


…でーと?


またもや不思議な単語に耳を奪われながらも掛け声をかけて馬をゆっくりと走らせた。
桃の格好は例のセーラー服だ。

その奇妙な格好にすれ違う町人がこちらを見ているのだが…

実は桃を見ているようで、皆は三成を見ていた。


…あの石田三成が女連れ!?


あり得ない珍事に、あっという間に噂は城にまで響き渡るのだが、この時の三成はまだそれを知らず、風に髪をよそがせながら草原を突っ走る。


「すごーい!三成さんやっぱりかっこいー!」


落ちてはいけないように桃の細い腰を支えていた手が熱く疼く。


その正体を、まだ三成は知らない。

相当の天然ボケはこれから炸裂するのだった。
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