優しい手①~戦国:石田三成~【完】

あいらぶゆー

皆は清野を疑ってばかりだったが、桃にとっての清野は神様に等しく、無言で視線を交わし合う面々にも一切気付かずに清野の手を握った。


「ありがとう清野さん!一緒に越後に行こうね!お話聞きたいな」


「実は私、桃さんたちと会う前にどこかで頭を強く打ってしまって、記憶が所々しかないんです。それでもいいでしょうか?」


「えっ!大丈夫なの!?覚えてることだけでいいから教えてもらえると嬉しいな」


――三成が立ち上がり、謙信に耳打ちをした。


「同室で監視すべきだ。俺たちの誰かが必ず目を配れるように」


「ああ、そうだね。今の所特に不穏な動きはないけれど、また刺客が襲ってきたら桃姫が無防備になってしまう。誰が傍に居るべきかな?」


…腕の立つ男がいいに決まっている。


一騎当千の実力を持つ幸村を解き放てばその分戦は早く終わる。


その次に腕が立つ男と言えば…


「私、かな。どうだろう、これは義に反するのかな?」


「…いや、誰も異存などないだろう」


「出し抜いたみたいですまないとは思ってるよ。じゃあ、飛ばそうか」


一斉に三成たちが腰を上げたので、三成が敢えて冷えた瞳で桃を「見下ろしながら顎で出口を指した。


「今以上に飛ばしていくぞ。…馬を引いてくる」


「あ、待って、私も行く!」


案の定不安を駆りたてられた桃が立ち上がって三成の袖を握ると、一緒に出て行った。


――桃が居なくなってしまった途端、清野が熱っぽい瞳で謙信を見上げ、三つ指をついた。


「お荷物にならないよう努力いたします。ですのでどうか謙信様と同じ馬に…」


「さて、気を引き締めて行こうか。幸村、桃姫の警備は今後私がやるからね。君は思う存分戦うといい」


またもや会話を聞いてないかのようにして遮られ出て行く謙信を見送りながら悲しそうな顔をした清野に、政宗の乾いた哂いが降り注いだ。


「そなたは美女だが、見る目が無い。あの男、誰の物にもなりはしない。桃姫以外はな」


「そ、そんな…私は別に…」


振り向くことなく政宗が出て行き、一番最後に幸村が厳しい視線で清野を貫き、出て行く。


――しばらく座っていた清野の唇が、笑んだ。
< 226 / 671 >

この作品をシェア

pagetop