優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「うーん、ないなあ…ない…ない…」


戦国時代に来て早1週間。
桃はオーパーツが何なのか未だにわからず、大坂城下町をさ迷っていた。

この時点でもう桃の存在は街に知れ渡り、
桃が三成の屋敷で奉公していること、そして風変わりな言動で突飛な子であるという話はもちきりで、街を歩いているとあちこちから声をかけられる。


「桃、これ食べて行きなさい」

「桃、ちょっと話をしていかんかね」


そんな具合で立ち止まっては世間話や情報収集をして歩く毎日が続いており、いよいよ桃も焦り出した時――


小さな橋からため息をつきながら水面を覗き込んでいると…


「…あれ?何だろ…きらきら光ってる…」


この時代において硝子細工はまだまだ珍しいもので、もちろん桃はそのことに気付いていなかったのだが…

どんどんそれが流されて行ってしまい、行動力が命の桃は…橋からひらりと川に飛び込んだ。


「わーっ、桃―!」


傍に居た酒屋の主がそれを目撃して川面を覗き込むと…桃はすいすいと器用に泳ぎながら、頭から潜り込んだ。


「誰か助けを呼んでおいた方がいいんじゃないか?」


――人々が桃を案じてそう騒ぎ出した時。


ひらり。


ん、と思ったのもつかの間…


小さな水音がして、また皆が川面に目を遣ると…ようやく顔を出した桃の腕を引っ張って立たせた甲冑姿の若い男が立っていた。


「…え?あ、あの…」


「無茶をする。こんな所から女子が飛び込んでは危ないぞ」


そう言って爽やかな笑顔で笑いかけてきた男の存在をもちろん桃は知らない。

きょとん、としていると…


男は、桃の顔をしげしげと眺めては浅い水の上で肩膝をついた。


「これは可愛らしい方だ。お名前は何と申される?」


「え…えーと…も、桃です」


…身なりがいい。
きっと位の高い人物なのだろうと若干緊張しながら答えると…


男が再び立ち上がったので、桃は細く大きな男を見上げた。



「拙者は真田幸村。桃殿、不肖ながら屋敷まで拙者が案内いたす」



――真田幸村?!


桃はまた混乱しながら幸村の顔をガン見した。
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