優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「ふう、危ない危ない」


――大して危なそうには感じない間延びした声を出しながら血糊を飛ばし、鞘に収める。


後方に回り込んだ政宗と小十郎が、桃たちに向かってきた刺客たちをあぶり出し、謙信と兼続が討つ。


三成と幸村は最も大きな集団だった刺客たちを滅して、頬や手が返り血に濡れている。


「三成さん、幸村さん、大丈夫?」


「ああ姫、お手が汚れてしまうので拙者に触れない方が…」


「そんなこと言ってらんないよ!」


クロから降りて幸村の頬に付いた血を背伸びしてハンカチで拭いてやる。

三成は比較的返り血を浴びていなかったが、それは幸村の猛攻で刺客を滅する機会が少なかっただけだ。


「そなたは大丈夫だったのか?…清野は?」


「は、はい、私はただ恐ろしくて…目を閉じておりました」


「私は何かするよ、って言ったのに謙信さんに止められて…」


口を尖らせて小言を言うと、政宗が豪快に笑いながらクロの首を叩いた。


「姫は真にじゃじゃ馬姫だな。乗りこなすのが楽しみだぞ!」


「立ち止まると危険だ。桃、早く乗れ。謙信公、行こう」


――政宗が仏頂面の三成の背を叩き、慌てて騎乗した幸村が先頭を突っ走る。


「私も怖かったけど、清野さんを守らなきゃって思ったらそんなに怖くなかったかも」


「もしかして私の警備なんか要らなかったかな」


「そだね、戦場でも案外役に立つかもよ」


――謙信の憂いに満ちた瞳はそれをやわらかく受け止め、桃の手を恭しく取って甲にキスをした。


「わわ…っ」


「姫と戦場を駆けることができるのならば、私は無敵になれるよ。毘沙門天の加護に加えて姫の加護。天下の平定なんか、あっという間かもね」


――戦に興味のなかった男。


仲間のため、国の為にのみ動いては有り余る才を奮って、そして急逝した上杉謙信には三成たちにない儚さがある。


短命という点では三成が最も早いが、どちらにしろこれ以上歴史を変えるわけにはいかない。


「…さ、行こっか!」


「うん、行こう」


――風を受けて走り出す。

三成の隣に行って、このときめきが幻想であることを確かめたかった。
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