優しい手①~戦国:石田三成~【完】
な、何故こんなことに…?


――大山はそう心で絶叫しながら幸村を大広間に通した。

その間、桃はずっと幸村の隣に居たのだが…


いたく桃のことを気に入ったのか、先程から自分そっちのけで桃と雑談している。


「へえ、上杉って…上杉謙信さんのこと?今は上杉軍の人ってこと?」


「はい。真田家は謙信公からの庇護を頂き、何とかお家を繋いでいる状態。私は人質なのですが…こうして遣わせて下さった。誠心の広きお方です」


――本来は上杉景勝時代に上杉と恭順した者なのだが…歴史が狂っている。

桃はまだそれに気付いていない。


「確かに時代劇とかでも上杉謙信って言ったら軍神とか言われててすごい人だもんねー」


「じだいげき?」


「これ桃!とりあえず着替えて来い!三成様には使いをやった故そろそろ戻られる頃じゃ。身なりを整えておけ!」


「はあい、じゃあ幸村さん、また後でね!」


男らしくぺこりを頭を下げた幸村に手を振って障子を閉めた直後…幸村は口を抑えて顔を赤くした。


「大山殿…あちらは…桃殿はその…三成殿の…」


「ああいや、妻ではない。あのような小娘、我が主が相手にするわけないではないか」


憮然と言った大山に、何故か幸村がほっとした顔をした。
はい?と言った顔で大山が見つめていると…またもや顔を赤くした。


「いや、可憐だな、と。お助けしたのはほんの気まぐれでしたが、三成殿の奥方ではないのならば…」


「よもや…妻にしたいなどとはおっしゃらんだろうなあ?」


ぎくっとなった幸村は、急激な話題転換を試み、改めて直江兼続より預かった文を大山に見せる。


「三成殿と兼続様は真の友とお聞きした。敵と味方の垣根を飛び越えて盃を交わした、とおっしゃっておられたが…三成殿はその…堅い方で有名であったが?」


「ああ、我が主は非常に辛辣な方故…言葉にはゆめゆめ気をつけられよ」


どたばたと廊下を走る音がして、勢いよく障子が開く。

そこには淡い桃色の浴衣を着た桃が息を切らしながら立っていた。


「幸村さん、話の続きしよっ!」


またもや頬を赤くする幸村。


大山の悩みの種が増えてしまった。
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