優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成が急使から密かに話を聞き、屋敷に戻ったのはそれから1時間後のこと。


直江とは秀吉の目を盗み、何度も文のやり取りを続けていたのだが、

まさか真田幸村を使いによこすとは想定外だった。


「大山、戻ったぞ」


使用人に馬を預けると、出迎えに来た大山が…耳打ちをしながら隣を歩く。


「三成様…直江兼続の使者です。文を預かって参ったとのことですが…その…少々面倒なことに…」


「なに?」


相変わらず表情の動かない三成が、大広間の障子を開けた時…

僅かに表情が変化したのを大山は見逃さなかった。


「桃…何をしている?」


――目の前に現れた光景は…


桃と幸村が二人で羊羹を頬張っている姿だった。
しかも幸村の派手な出で立ち…。敵陣に真田の十問銭の旗を背負って現れたようなものなのだ。



「あ、おひゃえりなひゃい、みちゅなりひゃん」


もごもごと口を動かしながら手を振って来る桃に、どっと疲れが出る。


「これは石田三成殿とお見受け致す。拙者は真田幸村と…」


「兼続の文でそなたのことは知っている。何用で参った?…密使か?」


とても重要な話なのだが…桃に聞かせても問題ないだろう。

徐々に三成は桃に心を開き始めている。
それは…毎夜共にひとつの布団で寝ているせいかもしれない。


「実は…謙信公がその…大坂城下を物見に参られたいとのことで…。謙信公は決して戦を仕掛けに参られるのではなく、よしなにして頂きたいとの兼続様からの文でございます」



…あの上杉謙信が大坂へ?

秀吉がそれを知ってしまったら、きっと巧妙な罠を張って謙信を亡き者にしようとするかもしれない。


…唯一無二の友であり、敵でもある直江とは相対したくは無論ない。


「…それで俺の元へ?一体上杉は何を考えている?大将自ら敵陣へ物見とは…気でも触れたか?」


幸村は笑みを崩さず、隣の桃を見てまたでれっと表情を崩した。
…それは三成の癪にとことん触っていた。


「いやはや、石田殿は深く考えすぎでござる。天下取りは上杉も豊臣ももちろん狙っているとは承知故、謙信公は何やら大坂城のあたりで不思議な出会いがある、との毘沙門天のお告げを受けたとのこと。まずは文を」


…出会い?
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