優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃は幸村が珍しくて仕方なく、

ひたすら傍に居てはこのにこやかな男の人となりを気に入っていた。


「幸村さんって…優しそうな男の人だねー。もう結婚してるの?」


夜半、三成と幸村、桃だけという酒肴の席で、藪から棒に桃はずばりと幸村に直球で質問してみた。

盃を豪快に飲み干していた幸村はついむせて、ごほごほと咳込みながら涙目になりつつ桃を盗み見る。

桃は目をキラキラさせながら答えを待っていて、三成は幸村の隣に座っている桃が気に入らなかった。


「あー、拙者は人質の身故…妻を娶るなどはまだまだ先のことで…」


「えーっ、そうなんだもったいなーい!幸村さんならすぐ奥さん作れちゃうよね。ねっ三成さん」


「は?ああ…まあそうだな。上杉方は良くしてくれるか?」


はい、と爽やかな返事をして幸村は正面の三成ではなく、ちらちらと桃を見る。

何故かわからないが無性にそれが腹に立ち、三成は桃を招き寄せた。


「桃、こちらに来なさい。甘酒があるぞ」


「わーっ、飲む飲む!」


膝をついたまま三成の隣に座り直してはにこにこしている桃を見てやや幸村ががっかりした表情になり…

三成は何故か勝ち誇った気分になった。


「謙信公が物見の際は、我が屋敷にて滞在して頂くこともできるが…くれぐれも秀吉様のお耳に入らぬよう善処致す。それで良いか?」


「はい。あのそれであの…」


口ごもった幸村は、これまた豪快に甘酒を飲み干している桃に視線を遣って、ものすごく小さな声で聞いてきた。


「桃殿は…女中には見えませんが…大山殿は三成殿の奥方でもないとおっしゃっておられたが…どのようなご関係で?」


――今度は三成が口ごもる番だ。

甘酒効果で頬を桃色に染めながら楽しそうにしている桃が急に腕に絡みついてきてしなだれかかってきた。


「これ…甘酒なのお?なんかぐにゃぐにゃするう…」


「こ、こら、桃!離れなさい!」


…そのままずるずると寝てしまった桃と三成を交互に見ながら、幸村が苦笑した。


「これはこれは…拙者と三成殿は同じ想いのようだ。強敵ですな」


――何故かそれをすぐに反論できなかった。
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