優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃は三成の膝枕でくうくうと眠っている。


なので三成は微動だにできず、桃の寝顔を肴に羨ましそうな顔で酒を飲んでいた幸村が…とうとう酒の勢いで願望を口にした。


「み、三成殿…疲れるでしょう、拙者が代わりに…」


「いや、結構。…桃に懸想したのか?」


逆にずばっと切り込まれて幸村は鳩尾を押さえながら赤面し、呻いた。


「…恥ずかしながらそのようです。桃殿はとても可愛らしく、元気が良い。拙者はどうやら一目惚れをしたようなのです」


――正直者なのか、こちらが赤面するようなことを言いながら幸村がにじり寄ってきて、桃の頬に恐る恐る手を伸ばした。


だが三成はそれを、ばしっと弾いた。


「寝込みを襲うは卑怯なり。男らしく正々堂々と口説かれればよろしい」


どこか憮然とした物言いに、幸村はくすりと笑うと親和のために武装解除した具足の篭手を手にした。


「生き急ぐのは仕方ない。明日をも知れぬ我が身ですからな」


がちゃ、と重たい音を立てた具足の音で桃が目を覚まし、寝ぼけ眼で三成の顔を見ては起き上がり、どこか出ていく風情の幸村の腕を慌てて掴んだ。


「幸村さんっどこ行くのっ?」


「拙者は用が済んだので越後へと戻り…」


「駄目!せっかく来たんだから泊まってったら?三成さんもそう思うよねっ?」


――縋るような目でそう言われては無下にできず、なるべく表情が動かないように頷いた。


「数日逗留されるがいい。越後は遠い、疲れを取ってから戻られては」


「それはありがたい。三成殿は聞き及んだ御仁とは少々違うようだ」


桃がわくわくした顔で先の言葉を待っているので、幸村は篭手を床に起きながら快活に笑った。


「たいそう頑固者で正義を尊ぶ方。反面敵も多いと聞いております。どうか自重されますようにと兼続殿が」


「ふん、相変わらず余計な世話を焼く奴だ。幸村殿、もう遅い。床を用意させる故しばしお待ちを」


立ち上がった三成に桃が何の気無しに問題発言をした。


「三成さんももう寝ちゃう?じゃあ一緒寝る!」


――え…?!


幸村の目が真ん丸になったのを見た三成は…


深く深く、ため息をついた。
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