優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成が愛した女
ものすごく騒々しい。
騒々しいが、尾張や奥州という敵国の者も在る中でも彼らは陽気だった。
「桃姫、越後の米はどう?美味しいでしょ?」
食道楽の桃が一心不乱に白米を頬張っているので、つい皆頬が緩んでしまって仕方ない。
肝心の桃は、米ももちろんだが、漬物や魚、味噌汁などもとても美味しくて完食してしまって、謙信を笑わせた。
「これは綺麗に平らげたね。お代わりあるよ」
「え、ほんと!?い、いただいちゃおっかなー…」
ついそう言ってしまい、謙信が襖を隔てた女中を呼び寄せた時――
「み、三成様…!?」
「!お、お園…っ」
――三成の緊迫した声が耳を震わせた。
「三成さん?」
目が見えない桃がそう呼びかけても、三成からは何の反応もない。
…なにかとてつもなくいやな予感がして、謙信の袖を握った時――
「あれ?君たち知り合いなの?」
のほほんと謙信が聞くと、“お園”と三成に呼ばれた若い女の声が、緊張に震えた。
「は、はい…。私が尾張で・・・春日山城で働いていた時に………」
「……」
それっきり黙ってしまい、二人がどうやら特別な関係にあることが窺い知れた。
「…三成さんの…知り合い?」
声が尖ってしまう。
“お園”と名を呼んだ時の三成の声…とても、優しかった。
「・・・お園が女中として働いていた時・・・懇意にしていた」
「懇意とはつまり?」
突っ込んでくる謙信に、三成の顔が歪む。
それはどうしても桃に聞かれたくないことで…
桃だけには、言いたくないことだからだ。
――お園は三成の顔を見ることができず、俯いたまま…今は主君の謙信に、小さな声で、答えた。
「…尾張に居た頃…三成様から寵愛を頂きました…。でももう、過去のことです」
…寵愛。
三成が愛した女。
「…へえ、そうなんだ」
桃の声色が急激に冷たさを増して、下がった。
顔には何の表情も浮かばず…
喜怒哀楽が抜け落ちた桃の魂は・・・急激に、三成から離れつつあった。
騒々しいが、尾張や奥州という敵国の者も在る中でも彼らは陽気だった。
「桃姫、越後の米はどう?美味しいでしょ?」
食道楽の桃が一心不乱に白米を頬張っているので、つい皆頬が緩んでしまって仕方ない。
肝心の桃は、米ももちろんだが、漬物や魚、味噌汁などもとても美味しくて完食してしまって、謙信を笑わせた。
「これは綺麗に平らげたね。お代わりあるよ」
「え、ほんと!?い、いただいちゃおっかなー…」
ついそう言ってしまい、謙信が襖を隔てた女中を呼び寄せた時――
「み、三成様…!?」
「!お、お園…っ」
――三成の緊迫した声が耳を震わせた。
「三成さん?」
目が見えない桃がそう呼びかけても、三成からは何の反応もない。
…なにかとてつもなくいやな予感がして、謙信の袖を握った時――
「あれ?君たち知り合いなの?」
のほほんと謙信が聞くと、“お園”と三成に呼ばれた若い女の声が、緊張に震えた。
「は、はい…。私が尾張で・・・春日山城で働いていた時に………」
「……」
それっきり黙ってしまい、二人がどうやら特別な関係にあることが窺い知れた。
「…三成さんの…知り合い?」
声が尖ってしまう。
“お園”と名を呼んだ時の三成の声…とても、優しかった。
「・・・お園が女中として働いていた時・・・懇意にしていた」
「懇意とはつまり?」
突っ込んでくる謙信に、三成の顔が歪む。
それはどうしても桃に聞かれたくないことで…
桃だけには、言いたくないことだからだ。
――お園は三成の顔を見ることができず、俯いたまま…今は主君の謙信に、小さな声で、答えた。
「…尾張に居た頃…三成様から寵愛を頂きました…。でももう、過去のことです」
…寵愛。
三成が愛した女。
「…へえ、そうなんだ」
桃の声色が急激に冷たさを増して、下がった。
顔には何の表情も浮かばず…
喜怒哀楽が抜け落ちた桃の魂は・・・急激に、三成から離れつつあった。