優しい手①~戦国:石田三成~【完】
お園の登場をきっかけに、三成の心は桃のことでがんじがらめになっていた。


…こんなにも想っていたとは。

謙信を弑してまでも…越後を敵に回してまでも、桃を奪い返したいと願うとは――


だが肝心の桃は…話さえ聞いてくれない。

お園とのことは事実で、だがそれは過去のこと。

過去のことは、消せない。


――割り当てられた自室で思い悩んでいると…


「三成殿…桃姫をお連れいたしました」


信じられない思いで振り返ると、

複雑な表情を浮かべた幸村の手に引かれ、動揺しているであろう桃の唇が震えていた。


「ありがとう幸村さん。もう大丈夫だから」


「…後程お迎えに上がります」


一度幸村と無言で視線を交わすと、桃を残してその場を去っていく。


これからするであろう話は立ち話で済むものではなく、互いに数分間立ち尽くしていたが…一歩踏み出すと、桃の肩がぴくりと震えた。


「…入ってくれ」


「…うん」


固い声。

いつもの快活さはすっかりなりを潜め、肩を抱くと大人しく部屋の中へと入ってくれた。


「私…話すことなんてないから。謙信さんが行って来いっていうから来ただけだし…もう戻るね」


来て早々腰を上げようとした桃についに三成の堪忍袋の緒が切れる。


「俺の話を最後まで聞いていけ!」


「…っ!」


「聞いてくれた後はもう…そなたの好きにすれば、いい」


もう、そうするしかない。

どんなに焦がれても…お園とのことを桃が許してくれないのなら、我が身を焦がして生涯想いを抱えていくしかない。


「…」


「お園とのことはもう五年前の話だ」


「…うん」


「一時期愛したのは事実。その後の五年間で傷も癒えた。そして、そなたに出会った」


「…」


「桃、俺の告白は嘘偽りない真実。そなたを離したくない。俺にはそなたが必要だ」


膝の上で握られていた手をそっと掌で包むと、しゃくり声が三成の胸を打つ。


「も…どうしたらいいのかわかんない…!三成さんのことも謙信さんのことも…わかんないよ…!」


「桃…!」


――久々にその身体を抱きしめる。
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