優しい手①~戦国:石田三成~【完】

桃の変身

風呂に入り、少し書物を紐解いては寝所に行くと…


桃は布団に入らず、その脇で正座してただじっとしていた。


――それはまるで夫を待つ貞淑な妻のような図で、思わずどきっとなった三成が脚を止める。


「あっ、来た!遅いよ待ってたんだから!」


“先に寝なさい”と何度も言うのに言うことを聞かない桃と一緒の布団に入って寝るのは最早日課になっており、
三成もそれには徐々に慣れてはきていたのだが…


元々が堅物なだけに、今も気が引けている。


「そろそろ一人で寝てはどうだ?」


「えっ」


明らかに嫌そうに可憐な顔を歪めた桃につい笑みが沸いたが、そんなのは自分らしくない、と自身を律して表情を正すと、厳しい口調で命令した。


「今夜は自分の布団で寝ろ。幸村殿が誤解するだろう」


「えっ、誤解ってなに?幸村さんが何を誤解するの?」


きょとんとしてしまった桃に背を向けて横向きになると、しばらく沈黙が続き、何かが這う音がした。


――何の音かと肩越しに振り返ると…


自分の布団と桃の布団がぴったり密着していて、大きなひとつの布団のような有様になっていた。


「…」


「ねっ、これならいいでしょ?これが精一杯の妥協だからお願い!」


もう何度目のお願いなんだか…と内心呆れ返りながらも切れ長の瞳で見つめていると…


桃の胸の辺りが緩んで、胸の谷間が見えていることに気がついた。


「!!…も、桃…」


「なあに?」


武将たる者、冷静さを保つことが常に要求される時代。


三成はパニックになっていた。


「…浴衣は、ちゃんと着なさい」


――それでも言われている意味がよくわかっていない桃は、薄い掛け布団を首まで着ると転がりながらぴったりと三成の背中に張り付いた。


「…桃!」


「これならいいでしょ? ね、三成さん…手繋ごうよ」


桃はいつも手を繋ぎたがる。


朝起きると、意思とは裏腹にいつも手を繋がれているのが良い証拠だ。


「…いつまで経っても童女だな」


「だって安心できるんだもん。三成さんの手…冷たくて持ちいー」


…やはり安眠とは程遠い。
< 30 / 671 >

この作品をシェア

pagetop