優しい手①~戦国:石田三成~【完】
一瞬桃の身体が傾いだが、背中に腕を回して抱き着いてきた。


「桃、謙信の傍に行くな。俺の傍に居ろ!俺がそなたの親御を捜して、越後を出よう。桃…」


「三成さん…ひっく、う、う…っ」


両目を覆う布がみるみる涙で滲み、布を外してやると、溢れる涙を唇で吸い取った。


「…謙信を拒絶することもできぬのだろう?」


「だって、あの人…私の中に入って来るの。ずっと昔から…知ってるような気が、するの…!」


――毘沙門天の啓示通りに尾張を訪れ、そして一目で桃がその啓示の女子だと看破し…


二人は惹かれ合って、運命づけられたように見えた。


――だが三成は“運命”などという曖昧なものは信じていない。


桃と先に出会ったのは、俺だ。

俺と桃は、出会うべくして出会った――


「私…三成さんのことも、謙信さんのことも…大好きだよ…」


とうとう、認めた。


だが謙信とは同列。


決闘で桃を勝ち取るか…


桃が時間をかけて、どちらかを選ぶか。


「桃…誤解は解けたか?お園とのことはもう何でもない。そなたしか見えていない俺をよくも疑ったな」


「だって…私今目が見えないし…三成さんの声は…すっごくせつなくって聞いてられなかったし…」


言い訳を募って腕の中で身じろぎをした。


桃がいつも“三成さんの優しい手が好き”と言ってくれることを思い出して、小さな手をきゅっと握りしめた。


「そなたの悪い癖は人の話を最後まで聞かぬところだ」


「ごめんなさい…」


――久々に桃の大きくて愛らしい目が見たいと思ったが、

目を開けないように注意を促して手を取って立ち上がらせようとすると、打掛を着慣れていない桃が裾を踏んで二人して畳に倒れこむ。


「このお転婆が。まあ、そなたはそうでなくては調子が狂う」


「も、もうっ、ひどい!」


押し倒された形の三成が桃の頬に掌で触れると、すり、と頬を摺り寄せてきたので、愛しさを込めてもう一度抱きしめた。


「謙信に呑まれないでくれ。そなたはそなたの意思で考えて行動してほしい」


「うん…頑張る。ごめんなさい、三成さん…」


氷解してゆく。
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