優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃と手を繋いだ三成が戻って来た時――謙信は苦笑して、肩を竦めた。


「やっぱりそうなったね。まあ仕方ないか、元々桃が三成の話を聞かなかったのが原因だからね」


「…三成さんにも同じこと言われたよ」


つい名前を呼んでしまってはっとなったが、謙信は気にせずに桃の前にヨモギ餅を差し出すと…


その匂いに気付いた桃がぱくりと食いついた。


「おいしっ」


「ということで。私は義を通したよ。君は?」


本来なら緊迫感漂う修羅場のはずだが、桃はヨモギ餅に夢中だし、緊張しているのは三成と部屋の隅に座っている幸村だけに見えた。


兼続は元よりどちらに転んでも良いように策を練っていたので、謙信を尊敬の目で見つめる。


「殿…さすがでございます!義を通す男上杉謙信!恋の戦でもそれを貫き通すのでございますね?」


「うん、勝機ありと見ていたけど、これで振り出しに戻ったね」


上杉謙信と石田三成を両天秤にかけているのが桃。


いや、真田幸村も伊達政宗も、ひいては景勝や景虎さえも桃に夢中になっている――


これはひとつ間違えば大惨事になるが、有効に使えば…上杉が天下を獲るのも夢ではない。


兼続は密かにほくそ笑みながら三成に耳打ちをした。


「殿に言い返してみろ。“義を通したからそなたもそうしろ”と言われているのだぞ」


「桃に全てを委ねる。白黒つけたいのは山々だが、桃を焦らせないで頂きたい。これが俺の言い分だ」


「うん、わかった。ごめんね桃、珍しく勇み足をしてしまって君を困らせたね。君の好きなようにしていいよ、私はいつまでも待っているから」


「うん…ありがとう謙信さん」


三成との誤解が解けて、明らかに桃の雰囲気が明るくなった。


どんな話をしたのか、気にならないわけではなかったが…


謙信としては桃と同じ光景を見れたこと、それこそがこの時最大の喜びでもあった。


「さて私はまた軍議に戻るよ。三成、幸村、後は任せたからね」


「お任せを!」


「謙信さん、行ってらっしゃい!」


――やっぱり明るい桃が良い。

微笑みながら部屋を出た。
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