優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃が笑ってくれると本当に嬉しい。

尾張に居た頃は笑顔が絶えなかったが、最近は曇りがちでいつも緊張しているように見えた。


だが今の桃は、幸村が恋をした桃に戻っていた。


「ねえ幸村さん、クロちゃんに会いたいんだけど…駄目かな?」


「中央へ引いて参りますのでしばらくお待ちを」


「ありがとう!わあ、元気にしてるかな」


目を細めながら幸村が退席し、部屋には三成と桃だけ。


こんな時間は久しぶりだった。


「桃、そなたの目が見えない間でも俺は城下町へ行ってみようと思っている。一刻も早く、ここから出て行きたいからな」


「え…駄目だよ一緒に行こうよ!」


今まで桃の“お願い!”を何度聞いてやったことか――

あと、“駄目!”も何度も言われて、それを思い出してついはにかむと、それを敏感に察知した桃が膝を叩いてきた。


「なんで笑ってるの?どうせ私の文句でしょ?」


「いや…束の間二人になれて嬉しいだけだ。……何を言わせる!」


勝手に言って、勝手に照れてしまって怒られたのは理不尽だったが、三成には思っていることは何だって言えるし、謙信とは違う安らぎを感じることができる。


――桃がぽんぽんと自分の膝を叩いたので首を傾げていると…


「膝枕したげる。はいどうぞ!」


「!!ひ、ひ、膝枕など要らぬ!」


「仲直りの印だよ、してくれないと…根に持つんだからね」


そう言われるとぐうの音も出なくなって、

部屋には誰も居ないのにさっと全体に視線を走らせると、怖ず怖ずと桃の膝に頭を預けて寝転がった。


…とてもやわらかい。


「ちゃんと話…聞いておけばよかったね」


「いや…動揺した俺も悪かった。もう誤解は完全に解けたのか?いくらでも説明してやるから言ってくれ」


――指で三成の顔をなぞる。

頬、鼻、唇…

唇にたどり着いた時、手を握られて指先にキスをされ、つい声を上げた。


「ひゃっ」


「桃…唇が欲しい。俺に今与えてくれ。渇きを潤したい」


後頭部に手を回され、引き寄せられてキスをした。


久々の三成とのキス。

甘くて激しくて、とろけそうになる。
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