優しい手①~戦国:石田三成~【完】
…謙信の声が震えた…


何故かそれがとても悲しく、

いつも飄々としている謙信が何か悲しみに囚われているように感じて、その顔に手を伸ばす。


「謙信さん?どうしたの?…泣いてるの?」


意を決して顔に触れて、頬を通り、目の辺りに触れると…僅かに湿っているように感じて、

その熱にびくっとなって手を引っ込めると、その手を優しく取られて頬にあててきた。


「君にはなんでもお見通しなんだね。そう、どうしてだか…とても悲しくなってきたんだ。今もとてもとても悲しくて…私も自分が自分でわからないよ」


「謙信さん…」


悲しみが伝染してつい桃も泣きそうになって、謙信の頬を両手で包み込むと勇気づけるように頬を小さく叩いた。


「泣かないで謙信さん…。謙信さんはいつも飄々としてないと調子狂っちゃうよ。悲しい時は早く寝て忘れた方がいいよ、もう寝ちゃったら?」


「一緒に寝てくれるの?だったら今すぐにでも寝るよ」


早く元の調子の謙信に戻ってほしくて、桃が頷くと…


「きゃっ!」


「桃が慰めてくれるのなら、すぐにでも元気になれる」


お姫様抱っこをされて毘沙門堂を出ると、幸村の驚いたような声がかけられた。


「殿…桃姫?い、いかがなされ…」


「幸村、私はもう寝るよ。桃が一緒に寝てくれるっていうから、誰も邪魔しないように言っておいて」


「!は、はい…畏まり、ました…」


――謙信の首に腕を回してしがみつきながら、やはり色気むんむんの謙信についときめいてしまって、

もしかして余計なことをしてしまったのかも、と思ったが…あの涙は本物。


謙信は、泣いていた。


「着いたよ、下ろすからね」


「あ、う、うん」


下ろされた先は布団の上で、灯篭の明かりがひとつ燈っていて、閉じた瞳に小さな灯りが浮かび上がる。


「変なとこ見られちゃってちょっと恥ずかしいけど…まいっか、私は桃の恥ずかしい姿を沢山もう見ちゃってるからね」


「え!?ど、どういう意味?」


「さあ、どういう意味だろうね?興奮を抑えるのが大変だけど…君は本当に綺麗だ。これからますます綺麗になっていくよ」


覆い被さってきた――
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