優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信の唇が首筋を這う。

優しいその動きに、桃は手を突っ張って謙信の肩を押した。


「だ、駄目、謙信さん…!」


「何も抱こうとしてるわけではないよ。だけど…君に触れていたいんだ」


まだ声は悲しみに揺れている。

何を悲しんで、何に不安を感じているのか桃にはわからなったが、こうして温もりを求めてくるのにはそれなりの意味があるのだと思って、好きにさせるようにした。


抱かない、と言ってくれたから、肝が据わった。


「ん、触るくらいなら…、ま、待って…!」


耳に息を吹きかけられて大きく身体を引きつらせた桃の顎を取り、謙信が深く唇を重ねてきた。


絡まって音が鳴って乱されて…みるみる身体の力が抜けていって、息が上がる。


「息が、できな…っ」


「まだ。まだ足りない。桃…いつか私を受け入れて。君が完全に私に心を開いてくれるまで、いくらでも待つから。だから私の傍に居て」


低く艶めく男の声が鼓膜を震わせ、耳たぶをかじられて、思わず高い声を上げた桃に謙信が震える息を吐いたのがわかった。


「ああ駄目だ…抑えられなくなってしまう。桃は私を乱すのが本当に上手だね。龍は狼になってしまいそうだよ」


「謙信さん…お願い、それ以上は…」


「“欲しい”って言ってごらん。そうすれば今私の全てを君に与えてあげるよ。私は…君が欲しい。今すぐにでも」


――桃の手は、謙信の浴衣を割って謙信の胸元に引き寄せられた。


「謙信さ、ん…っ」


「私の鼓動が聴こえるでしょ?熱いんだ。君を想ってもっと熱くなってくるんだ」


男だ。


謙信を男としてものすごく意識してしまい、桃は泣きそうになる。


三成も迫って来る時はものすごく男らしく…つい身を委ねてしまいそうになる自分を叱咤して、また謙信の両手を小さくはたいた。


「言わない!もうっ、謙信さん寝るんでしょ!?こんなこと、駄目だよ!一緒に寝てあげないんだから!」


「それは困るなあ。…ありがとう桃、少し落ち着いてきたよ」


布団を頭から被ると強く抱きしめられた。

乳香の香りが桃の鼻をくすぐり、謙信は桃の温かさと優しさに溺れながら、2人は朝までそうして眠った。
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