優しい手①~戦国:石田三成~【完】
当然予想できたことだったが…桃たちはあっという間に囲まれてしまった。


一目謙信を見ようと民が殺到し、立ち往生してしまって、仕方なく城を警備する兵たちを駆り出して整備し、捜そうとしたのだが…


なにぶん城下町が広すぎる。

しかも清野は“城下町に居る”という情報しかくれなかったので、ただやみくもに探し回っているだけで時間はどんどん過ぎてしまい、

仕方なく桃は馬を下りて、ずっと後ろをついて来ていた平民姿の若い女性に話しかけた。


「あの、聞きたいことがあるんですけど…」


「は、はい、何なりと!」


すっかり舞い上がられてしまい、

しかも三成と謙信も興味津々の態で近付いてきて隣に立ったので、女は膝をついて深く頭を下げた。


「さあ、私の寵姫の話を聞いてやってくれないかな」


「は、はい!」


――三成が軽く謙信を睨み、桃が少し顔を赤らめたが、何とか平静を装って、女の手を引っ張って立たせると、真剣な目をして聞いた。


「この街にちょっと変わった夫婦がいませんでしたか?変なものを腕につけてて、とにかく器用で、何か探していたり…。40代くらいの人たちです」


女は最初ぴんとこないような顔をしていたが…何か閃いたような顔をして、街の外れを指差した。


「もしかして、最近居なくなった人たちのことでしょうか?突然街にやって来て川辺の家に住んでいて、少し変わった格好を・・・姫様のように見慣れない格好をして・・・」


3人が顔を見合わせる。

それは、間違いなくこの時代には居ない人間の特徴。


「ほんとに!?ありがとう!行こ!」


「桃、少し待ちなさい。これは罠かもしれないよ」


桃をクロに乗せてやりながら珍しく謙信が至極まじめな顔をしてそう言ったので、桃は不安になって馬上から謙信の肩に触れる。


「え、どうゆうこと?」


「清野の情報は確かだったけれど、私たちにそれを教えて何の得があるんだろう?ちょっと用心したほうがいいかもしれないね」


そう言って平屋の建物が並ぶ屋根に目を遣るとそこには男が立っていて、謙信とアイコンタクトをすると、幻のようにその姿が消えた。


「軒猿に探らせてみよう」


緊張が漲る。
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