優しい手①~戦国:石田三成~【完】
“この時代に残っていれば、また巡り合うこともあるだろう”


…ものすごく悲しくなって、それが自分のせいだとわかっていても立ち直ることができずにクロに揺られていると…


「あれだね、着いたよ」


様子がおかしいことには気付いているはずなのに、相変らず慰めようともしない謙信が小川に出て、葦の生い茂る獣道のような細い道を通ると、

一軒の粗末な長屋の建物が見えた。


「お父さん…お母さん…!」


「桃、待て!」


「大丈夫だよ、軒猿の調査はすでに済んでるから」


――両親と暮らした記憶はほとんどない。

姉たちからどんな人物だかは聞いていたし、写真も何枚も持っていたが…実感が沸かない。


そして息を荒げながら戸に手をかけて、開け放った。


「おとうさ………」


「…居ない、ね。でも生活していたのは確かみたいだ」


心臓がうるさいほど音を立てて、地面に脚が生えたかのように動けない桃の肩を抱いて謙信が中に入り、

半分桃に八つ当たりをしてしまった三成が気まずい思いをしながら続いて、屋内を見回した。


囲炉裏があり、外見はかなりみすぼらしかったが、中は整っていて直前まで生活していたにおいを感じて、何の気なしに桃が押入れを開けると、そこには…


「これ…手紙…?」


綺麗に畳まれた布団の下から出てきたのは半紙に書かれた手紙だった。


「私たちにはなんて書いてあるかわからないから、とりあえず城へ戻って落ち着いてから読んだ方がいい」


「桃、ここを見ろ」


「え……、これ…っ」


――建物の支柱を三成が指さす。


そこには…





小梅



蜜柑




――姉妹全員の名前が掘られていた。


「私たちの、名前だ…」


桃の手がぶるぶると震え、細い肩も震えて、三成と謙信が桃の肩にそっと手を乗せた。


「ここにはもう戻って来ないだろう。桃…戻ろう」


「…うん……」


やっぱりこの時代に来ている。


そして、呼ばれたのは自分。


「お父さん…お母さん…」


――会いたい。

会って、抱きしめてもらいたい――
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