優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「三成さん…手が痛いよ」


長い廊下を足早に歩いていた三成ははっとして振り返った。


「す、すまない」


「あの…ごめんなさい」


必死になって謝ってくる桃を見下ろしながら、三成はぎくしゃくと桃の手をまた取る。


「…美しくなったな」


突然の賛辞に、それが自分のことだとしばらく気付けなかったが…何故だか三成が突然色っぽく見えて慌てて俯いた。


「桃?」


「嬉しいから今夜のご飯は張り切って作っちゃうよ!」


――おちゃらけて言ったのに反応がなかったので、背の高い三成を見上げると…


やや顔を赤くしながらも、長い付け髪に触れては少し背を屈めて顔を近付けてきた。


「今夜は他の者に作らせてそのままでいるといい。それに…髪を伸ばすといい。よく似合ってる」


かあっと赤くなった桃の反応に、性に似合わない口説き文句のようなことを言ってしまった三成は…


二人してがっちがちに緊張して固まってしまった。


「み、三成さんみたいなかっこいい人にそんなこと言われたら惚れちゃうよっ!」


――薄化粧をしているだけなのに、桃が突然女に見えてしまった三成はぽりぽりと髪をかいた。


「惚れる?俺にか?」


「えっ!そんな…真に受けなくってもいいじゃん…」


またもや二人してもじもじしていると、握った手にぎゅっと力を込めて笑った。


「早くお家に帰ろ?ここ…落ち着かないよ」


「ん、んん…。幸村も心配しているだろう、俺もこのまま帰る。共に帰ろう」


いつもよりかなり優しくなったように感じる三成を改めて観察した。


目つきはやや鋭いけれど…綺麗な薄い唇をしていて、ごくりと喉を鳴らしてしまった桃は恥ずかしくなってまた俯いた。


「三成さん…なんか優しいね。なんで?」


――よもや桃を完全に女として意識してしまった…などとはとても言い出せない三成は、ただ握った手に桃以上の力を込めて歩き出した。


「そっ、そんなことはない!しかし全く幸村は何のために桃の傍に居たのやら…」


ひとつ間違えば大変なことになっていただろう。


屋敷に着くまで三成のぶつくさは止まらなかった。
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