優しい手①~戦国:石田三成~【完】
何の前触れもなく屋敷に輿が入って来た。


そして政務の時間帯にあるにも関わらずその輿を守るようにして帰って来た三成にさらに腰を抜かしそうになる。


「三成様!?これは一体…!?」


――その時、ばつの悪そうな表情をして幸村が部屋から出て来た。

明らかに反省の色が顔に浮かんでいたが、三成は愛馬から降りると輿の前に立った。


「着いたぞ」


何事か、と二人が見守る中――

すう、と白い手が中から差し出された。


さぞ身分のある方だろう、とごくりと喉を鳴らした時…


輿から出てきたのは、目を見張らんばかりの美女…いや、美少女だった。


「これはなんと…!」


大山がにじり寄ろうとした時…傍らに立っていた幸村が目を丸くして声が裏返りつつも叫んだ。


「…桃殿!?」


「…は!?」


首の筋が違えそうな勢いで幸村を振り返る大山に、三成は憮然とした口調で幸村を肯定した。


「そうだ。…幸村」


怒気を孕んだその口調に、幸村は裸足で庭に降りると三成と桃の前で土下座をした。


「幸村さん!?」


「桃殿!大変申し訳ありませんでした!拙者があの時お助けしていればこのようなことには…!拙者は上杉の者。身分を知られるわけにはいかなかったのです…!」


桃はきょとんとした。

別に怒っているわけでもないし、幸村に謝られる意味もわからない。


「え?仕方ないことだし、それにほら!このお着物綺麗でしょ?髪もね、これカツラなんだよー、髪…伸ばしてみよっかなー!」


とことん明るいその口調に幸村は救われる思いで顔を上げた。

そこにはにこにこと微笑む桃が居て、思わずその白く小さな手を取って…口づけをした。


「…わあっ!」


驚いて声を上げた桃に、その幸村の手を三成は剣の鞘でばしっと叩いた。


「何をしている、触れるな。俺は桃と少々話がある。部屋に戻って居ろ」


そのまま桃の手を強引に取って三成が歩き出す。
引っ張られるようにしながら桃は幸村に手を振った。


「桃殿…いや、姫とお呼びすべき美しさ…!」


興奮しきりの幸村に対し、大山は三成の変化を敏感に感じ取っていた。

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