優しい手①~戦国:石田三成~【完】
――突然、湯呑が真っ二つに割れた。


毘沙門天との対話を瞑想して行っていた謙信の横に置いていた湯呑が凶事を伝え、いやな胸騒ぎが身体中を駆け巡り、部屋から出ると…


兼続が緊迫した表情で駆けてきて…目の前で崩れ落ちた。


「兼続…?」


「三成が…斬られたそうです」


「…!で、三成は…どこに…?」


「その後幸村が戦闘を開始し、軒猿が周囲を警戒している間に姿が消えたそうです。殿…!」


割れた湯呑を手に、謙信は瞳を見開いたまま動けずにいた。


「そんな…じゃあ秀吉公には…」


「恐らくお会いできなかったかと…。殿、拙者だけでも今すぐ現場に…!」


「…駄目だ。幸村に任せよう。兼続…全軍撤退だ。敗走する織田連合軍を討つこと適わぬと全軍に命令するように」


「三成…、三成…!」


旧友の凶事にただ絶句し、身体を震わせる兼続の身体を抱きしめると背中をさすってやりながら、それでも厳しさは失わなかった。


「その場に三成の姿がないのなら、少なくとも今は生きているはず。引き続き軒猿と幸村に捜索させよう。君は全軍に命令を」


――そう話す2人の前には騒ぎを聞きつけた政宗が立っていて、事の重大さに、桃の名を口にした。


「そんな…俺は…俺たちは桃に何と言えばいいのか…」


「…勝手に殺すのは止そう。三成にも桃の元へと帰らなければいけないという揺るぎない信念があるんだ。私は見放しはしないよ。意味のない戦はしたくないから越後へ戻ろう。そこで作戦を練り直すんだ」


秀吉が軍を撤退させることを選んだ。

そのことに感謝しつつも、謙信も桃のことを案じた。


…どう説明すればいいのかわからない。


どんな反応をされるかもわからず、謙信は胸を押さえて秀麗な美貌を歪めた。


「殿!?」


「…戻ろう。兼続、三成の捜索隊を結成する。私たちは越後へ戻って、三成の帰還を待つ。もしくは…秀吉公に救ってもらっていればいいけれど…」


――その後、驚くべきスピードで上杉連合軍は軍をまとめ、関が原を後にした。


そうしつつも百人規模の三成の捜索隊を組み、軒猿から始終報告を入れさせた。


だが…三成は、見つからなかった。
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