優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成が斬られた時――桃は毘沙門堂に籠もって、祈願を続けていた。


…ここに居ると安心できて、落ち着く。


部屋に居ると息が詰まって悪いことばかり考えてしまう。


「大丈夫かな…2人共大丈夫だよね…」


そう呟きながら毘沙門天の像を見上げて微笑んだ時…一斉に蝋燭の炎が…消えた。


「え…っ、な、なんで…」


不吉な現象にただ怖くなって、おろおろしながら立ち上がり、像に触れた。



「まさか2人に何か…」


『も………………も…』


「え…、この声…三成さん!?」



切れ切れに聴こえたような気がするのは、三成の声。


弱々しく、儚く…


今にも息絶えそうな小さな声で、桃はさらに像に耳を澄まして縋り付く。



「三成さんなの!?三成さん、どこに居るの!?」


『…………』



それっきり声は聴こえなくなって、お堂から飛び出ると、番をしていた景勝が驚いた表情で桃を見下ろした。


「桃姫?」


「蝋燭が…蝋燭が全部消えたの!それで三成さんの声が…!」


意を解すことができずに首を傾げると、また桃が中へ駆け込んだ。


「桃姫…?」


「三成さん、三成さん!」


――中から懸命に三成に呼びかける桃の声が聴こえる。


…もちろんここに三成が居るはずもなく、

景勝は中へ入って一体何が起きたのかを聞きたかったのだが、この神聖なる毘沙門堂には謙信と桃しか入れない。


「三成さん、返事して!どこに居るの?無事なの?ねえ、返事してよお!」


…泣いている声がする。


聞いているだけで胸が痛んで、その場に景勝はどかっと座り込んだ。


――桃はその日から謙信たちが帰って来るまで寝食を忘れてお堂に籠もり、声が涸れても毘沙門天の像に呼びかけ続けた。


だがそれっきり三成の声は途絶え…


そして…


謙信率いる上杉連合軍が、春日山城に帰還してきた。
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