優しい手①~戦国:石田三成~【完】
外で馬の嘶く声がした。
残っている力を全て振り絞ってお堂を飛び出し、景勝の横を擦り抜けて、一気に正門まで駆け降りた。
「謙信さん!」
「桃…」
その顔には…笑顔がなかった。
――駆け寄ると、謙信の馬の後ろから大人しくついてきていたクロを見て…
その背に主が乗っていないことに顔を歪める。
「…謙信さん…!?」
「…桃…もう勘付いているんだね。三成は…今捜してる最中だよ。必ず見つけるから、安心して」
「やだ、やだよ!三成さんはどこ!?クロちゃん、そこまで連れてって!」
首を下げたクロに騎乗して駆けていこうとするクロの手綱を絞って引き留めると、城を発つ前よりもすっかり細くなってしまった桃の身体をさらって同じ馬に乗せながら、真実を語った。
「三成は斬られたそうだよ。幸村が関ヶ原に残り、行方を捜してる」
「斬られた…!?私、毘沙門天の像から三成さんの声を聴いたの!絶対生きてるもん!三成さん、三成さん…っ!」
顔を覆って泣き叫ぶ桃の身体を力を込めて抱きしめながら、懐に忍ばせていた三成から預かった文に手を伸ばしかけ…やめた。
「絶対に見つけるから…。だから桃、泣き止んで」
「三成さん…、三成さん…!」
慟哭は止まない。
――三成
君は最初から最後まで桃の心を奪ったまま、居なくなってしまうのか?
私は、桃に何を与えてやれるだろうか?
君の代わりなど到底できそうにないよ。
「…桃?」
声が止んだと思ったら…桃は腕の中で気絶してしまっていた。
「…兼続、床の用意を」
「…はっ」
「…哀れな…」
馬を寄せてきた政宗の表情も歪み、誰もが沈黙した。
――その頃三成が斬られた崖の傍で、捜索していた幸村が声を上げた。
「三成殿…!」
心臓が、止まりかけていた。
「三成殿、必ずお助け致します!」
傷口を止血し、共に捜していた秀吉が三成の身体を馬に乗せた。
「急げ!三成を救うんじゃ!」
――小さな声が、漏れた。
「桃……」
第1部完。
次頁より2部に続きます。
残っている力を全て振り絞ってお堂を飛び出し、景勝の横を擦り抜けて、一気に正門まで駆け降りた。
「謙信さん!」
「桃…」
その顔には…笑顔がなかった。
――駆け寄ると、謙信の馬の後ろから大人しくついてきていたクロを見て…
その背に主が乗っていないことに顔を歪める。
「…謙信さん…!?」
「…桃…もう勘付いているんだね。三成は…今捜してる最中だよ。必ず見つけるから、安心して」
「やだ、やだよ!三成さんはどこ!?クロちゃん、そこまで連れてって!」
首を下げたクロに騎乗して駆けていこうとするクロの手綱を絞って引き留めると、城を発つ前よりもすっかり細くなってしまった桃の身体をさらって同じ馬に乗せながら、真実を語った。
「三成は斬られたそうだよ。幸村が関ヶ原に残り、行方を捜してる」
「斬られた…!?私、毘沙門天の像から三成さんの声を聴いたの!絶対生きてるもん!三成さん、三成さん…っ!」
顔を覆って泣き叫ぶ桃の身体を力を込めて抱きしめながら、懐に忍ばせていた三成から預かった文に手を伸ばしかけ…やめた。
「絶対に見つけるから…。だから桃、泣き止んで」
「三成さん…、三成さん…!」
慟哭は止まない。
――三成
君は最初から最後まで桃の心を奪ったまま、居なくなってしまうのか?
私は、桃に何を与えてやれるだろうか?
君の代わりなど到底できそうにないよ。
「…桃?」
声が止んだと思ったら…桃は腕の中で気絶してしまっていた。
「…兼続、床の用意を」
「…はっ」
「…哀れな…」
馬を寄せてきた政宗の表情も歪み、誰もが沈黙した。
――その頃三成が斬られた崖の傍で、捜索していた幸村が声を上げた。
「三成殿…!」
心臓が、止まりかけていた。
「三成殿、必ずお助け致します!」
傷口を止血し、共に捜していた秀吉が三成の身体を馬に乗せた。
「急げ!三成を救うんじゃ!」
――小さな声が、漏れた。
「桃……」
第1部完。
次頁より2部に続きます。