優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「ちょんまげじゃない…」


両腕を三成の家来に抱えられたまま桃は長い廊下を歩きながらずっと呟いていた。


「大河ドラマで見る戦国時代の話はちょんまげだったもん。三成役の俳優の人、かっこよかったなー。あ、でも景虎役の人の方が…」


「少し黙れ」


家来が殺気立ち、苛立った声でそう言われて、桃はようやく黙った。
黙っては居たが…頭はフル回転していた。


ここは安土桃山時代。
さっきのイケメンな男は石田三成。
ちょんまげではない。
言葉も…そんなに古くない。

それに…織田信長?家康?
今天下を取っているのは…誰?


「三成様がお待ちだ。入れ」


すらりと障子を開けられて中に一歩入ると…そこには先程の三成と名乗る男が座り、桃を待ちうけていた。


「やっぱりイケメン…」


「?座れ。そなたの話を聞かせろ」


端的な話し遣いは三成の特徴とも言える。
輪に溶け込まず、秀吉のみを崇拝し、仕えて来た。
桃が見た大河ドラマでも三成はそんな感じだったので、逆に親しみを感じて三成に走り寄り、正面ではなく隣に座った。


驚いた三成は逆に桃から遠ざかるようにして少し後ずさり、座り直したが…また桃が詰め寄り、距離が縮まる。


「女子がそのようにするものではない。…少し離れろ」


「ここ安土桃山時代なんでしょ?伊達政宗とか上杉謙信とか織田信長とか徳川家康とかも居るの?」


「…無論だ。そなた…どこから来たと言った?その珍妙な服…異国の者か?」


――未来から。

そう言っても通用しないことはもうわかった。


だから桃は三成の手に未だに握られているネックレスを指差す。


「私、本当はここに居ちゃいけないの。歴史が変わっちゃうのもいけないし帰るから、それ返してくんない?」


三成は手に握った奇妙な飾り物を見つめた。

こんなものははじめて見たし、そしてこの女は…先程関ヶ原で戦いが起こると言った。


「そなた…先見の明がある者なのか?もしそうであれば、しばらく我が屋敷にて滞在してもらいたい」


…そう言われれば、悪い気がしない。


桃は頷いてスーパーの袋をまた三成に見せた。


「ハンバーグ食べる?」
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