優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成が普段書斎として使っている部屋に通された桃は、なかなか目を合わせてくれない三成の横顔を見つめ続けていた。


大山が運んできた茶を二人無言で啜り、桃は時を待つ。


次第に視線に耐えられなくなったのか、ちらっと横目で見てきたのでにかっと微笑むと…ようやくはにかんだ。


「秀吉さん良い人だね!さっすが天下人!」


桃の時代では誰もが知っていることだったが、この安土桃山時代は違う。


柳眉を潜めた三成の様子にまた自分が口を滑らせてしまったことに気付いて慌てて俯く。


「…桃」


「はっ、はい!」


声が裏返ってしまうほどに緊張してしまった桃は正座した膝の上で拳を握り締めた。


低いけれどどこか安心できる三成の声が目の前で聞こえて顔を上げると超至近距離に三成が座っていて…


優しく手を握られた。


…そのあたたかさ…


「秀吉様は天下人ではない」


「…えっ?」


そんなはずはない。

織田信長亡き後天下を取ったのは秀吉に間違いない。


…そういえば…織田信長は生きていると言っていた…


――桃は三成の膝に触れてさらににじり寄り、驚いたようにして一瞬三成が身を引いたがお構いなしに疑問を口にした。


「織田信長さんは…生きてるの?死んで…ないの?」


「…生きている。本能寺にて明智光秀に急襲されたが…かろうじて逃げ延びた。…だが…」


言い淀み、瞳を伏せた三成の肩を揺らして桃は懸命に訴えた。


「…違ってる!歴史が…違ってる!」


――大変なことだ。


明智光秀に襲われたのは確かだが、この尾張に織田信長と豊臣秀吉の両者が存在したまま天下を争うというあってはならない間違い――


「そなたの時代ではどうなっているのだ?秀吉様が…天下をお取りになったのか!?」


三成にとってもそれはとても重要なことで、細い肩を掴むと俯く桃の顎を取った。


「そうなのだな?俺は…俺はお傍に居たか!?」


――ほろりと桃の瞳から涙が零れた。


「早く…オーパーツを回収して…帰らなきゃ…!」


三成の胸がきゅう、と痛んだ。


そして力任せに桃を強く抱きしめた。
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