優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成を自室の床に寝かせて、そして何度も何度も熱に浮かされながらただ一人の名を呼び続ける。


「桃………、も、も…」


「…誰か越後まで行って桃姫を…」


「ならぬ。儂が不穏な動きをすれば信長様に知られてしまうのじゃ。それに…桃姫も捕えられてしまう」


――尾張に戻って来るまでの間、秀吉は幸村から全てを聞かされ、三成が命を危険にさらしてまで自分の元に持って来ようとしていた文を見て…


決心していた。


「秀吉様…」


「…儂は信長様のお味方にはなれぬ。桃姫がこの時代の人間ではないということじゃったが…信長様はもう長くない。それに軍の数も儂の方が上じゃ。茶々よ…戦になるぞ」


茶々は、三成の顔を見つめながら、言った。


「はい…あなた様のお傍に居ります」


――三成の傍に――


茶々の言葉に満足した秀吉が腰を上げて一度三成を見つめると、ため息をついた。


「儂は皆にこの決断を話してくる」


秀吉が部屋から出て行ったと同時に茶々は三成の白く細い指に指を絡めて、顔を覗き込んだ。


「三成…しっかりしなさい。桃姫を…わたくしを置いて行かないで。そなたが死んだらわたくしは…」


秀吉に輿入れした日から優しくしてくれた三成。


それが“主君の側室だから”という理由であっても、茶々はその優しさが嬉しくて、想いを寄せるに十分な理由だった。


「三成…わたくしの名を、呼んでください…」


「も、も……」


――苦笑が漏れた。


許されない恋…それはわかっている。


わかってはいるが、触れられずにはいられない。


「三成…」


そっと顔を近付けて、そして、唇を重ねた。


…あたたかい。

生きている。


それだけで幸せで、身体を起こすとまた力のない手を握る。


「茶々殿」


「利休…」


入ってきた男は千利休。


好々爺だが、実際はどの国の君主にも繋がっていて、侮れない男だ。


「…利休殿、このことは織田信長公には内密に…」


「わかっております。三成殿…しっかりするのですよ。桃姫が待っていますよ」


――皆がそう三成に囁きかける。
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