優しい手①~戦国:石田三成~【完】
利休は先程秀吉から反旗を翻すと聞かされて、越後に出向こうとしていた。
「上杉謙信公にお会いし、此度の戦の戦況をお伝えし…そして桃姫に三成殿の事を…」
――その会話が聴こえたのか…三成が、うっすらと瞳を開けた。
「!三成!目が覚めたのですね?!誰か、秀吉様を!」
うまく喋れない三成の傷を労わりながら利休がゆっくりと身体を起こしてやり、湯呑の水をほんの少し飲ませると息を吐き、顔をしかめた。
「俺……、いや、私は…」
「ここは大阪城です。正則に斬られたそなたを秀吉様がお運び下さったのですよ」
まだぼんやりとした顔をしているのは、熱が下がっていないからだろう。
自分の胸を見下ろした三成が身体に巻かれた包帯を見て、滲む血を見て、思い出した。
「私は…秀吉様の本陣に行こうとして…清正と正則に…」
「清正は斬られ、死亡。正則は現在逃亡中。桃姫が喜びますぞ」
「…桃…とは?」
――利休と茶々が顔を見合わせた。
桃の名を出してもまるで反応を示さず、逆にそれが何者であるかのような顔で利休と茶々の顔を交互に見ている。
…茶々の声が思わず震えた。
「三成…、そなた…記憶が…?」
「桃姫、とは?私とどう関係があるのですか?う…っ」
「…しばらくは養生されよ。そなたの身体は疲弊しきっている」
「桃とは…!?」
切れ長の瞳を鋭く光らせてなおも問うてくるのは…
魂に、その名が刻み込まれているから――
焦っている。
その顔は、“桃姫”という女子のことを覚えていない自身に焦り、動揺していた。
「…三成、お願いですから眠って下さい。そなたの身体は痛み切っているのです。お願いです…」
「茶々殿…」
茶々の瞳に涙が滲んだ。
どうして桃姫のことを覚えていない?
どうして、あんなにも愛していた女子のことを忘れることができる?
「三成殿!」
「…幸村…」
駆け込んできた幸村は真っ先に三成の傍らで膝をついて、痩せ細った手を握りしめた。
「良かった…!これで桃姫の元へ戻れます!」
…また、“桃姫”…
「上杉謙信公にお会いし、此度の戦の戦況をお伝えし…そして桃姫に三成殿の事を…」
――その会話が聴こえたのか…三成が、うっすらと瞳を開けた。
「!三成!目が覚めたのですね?!誰か、秀吉様を!」
うまく喋れない三成の傷を労わりながら利休がゆっくりと身体を起こしてやり、湯呑の水をほんの少し飲ませると息を吐き、顔をしかめた。
「俺……、いや、私は…」
「ここは大阪城です。正則に斬られたそなたを秀吉様がお運び下さったのですよ」
まだぼんやりとした顔をしているのは、熱が下がっていないからだろう。
自分の胸を見下ろした三成が身体に巻かれた包帯を見て、滲む血を見て、思い出した。
「私は…秀吉様の本陣に行こうとして…清正と正則に…」
「清正は斬られ、死亡。正則は現在逃亡中。桃姫が喜びますぞ」
「…桃…とは?」
――利休と茶々が顔を見合わせた。
桃の名を出してもまるで反応を示さず、逆にそれが何者であるかのような顔で利休と茶々の顔を交互に見ている。
…茶々の声が思わず震えた。
「三成…、そなた…記憶が…?」
「桃姫、とは?私とどう関係があるのですか?う…っ」
「…しばらくは養生されよ。そなたの身体は疲弊しきっている」
「桃とは…!?」
切れ長の瞳を鋭く光らせてなおも問うてくるのは…
魂に、その名が刻み込まれているから――
焦っている。
その顔は、“桃姫”という女子のことを覚えていない自身に焦り、動揺していた。
「…三成、お願いですから眠って下さい。そなたの身体は痛み切っているのです。お願いです…」
「茶々殿…」
茶々の瞳に涙が滲んだ。
どうして桃姫のことを覚えていない?
どうして、あんなにも愛していた女子のことを忘れることができる?
「三成殿!」
「…幸村…」
駆け込んできた幸村は真っ先に三成の傍らで膝をついて、痩せ細った手を握りしめた。
「良かった…!これで桃姫の元へ戻れます!」
…また、“桃姫”…