優しい手①~戦国:石田三成~【完】
夜――それまで部屋に戻らなかった茶々が自室に戻り、三成を寝かしつけている部屋へとそっと入った。


薬湯の効果で眠っている三成の傍らに座り、美しい横顔に見入ってため息をつく。


「…桃姫と幸せになってほしいからこそ、わたくしは身を引いたのに…」


桃なら三成を幸せにしてくれる――そう思ったからこそ…


「……茶々、殿…」


随分と顔色が良くなった。


まだ傷口はひどい有様で、浴衣を着せてもすぐに滲んだ血で汚れてしまうので、三成の上半身は包帯を巻いただけで裸に等しく…


茶々は何度もそれを盗み見ながら薬湯を見せた。


「これを飲みなさい」


「かたじけない…。ご心配をおかけしました」


にこ、と笑いかけられて頬が熱くなるのを感じながら、それでも桃に対して引け目がある。


「そなたは速く傷を癒し、越後へと行きなさい。桃姫が待っています」


「…また桃姫という女子の話ですか…。私は本当にその女子と…よ、夜伽を…?」


僅かに頬を赤らめて恥ずかしそうにした三成に、胸が高鳴る。


茶々もまたそれを幸村から聞いただけだったのだが、三成が簡単に女子に手を出すはずがない。

考えに考えて、桃と一夜を共にしたに違いない。


…妻にするために。

帰ってきたら、祝言を挙げるために――


「…そうです。そなたは桃姫を想い、桃姫を妻に迎えようとしていました。…何故忘れられるのですか?どうして…?」


「…私にもわからぬのです。桃姫という女子のことを想うと胸が痛む。顔も思い出せぬというのに…」


眠っている間に幻聴が聴こえていた。


『三成さん…、三成さん…!』


何度も何度も、少し声の高くて泣きそうな声が聴こえて、せつなくなる。

そうやって、目覚める。

その繰り返しだ。


「…ですが、謙信公が桃姫を正室に迎えれば、そなたはどう思うのでしょうか?」


――桃姫が、謙信公の正室に?


三成の記憶は途切れ途切れで、謙信と会ったことは思い出せても、桃姫のことが思い出せない。


「…」


「…もう眠りなさい。わたくしは部屋を移しますから」


一緒に居ると、せつなくなるから――
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