優しい手①~戦国:石田三成~【完】
“屋敷に帰る”


2か月経ち、もう歩けるようになって、脚はすっかり萎えていたが…


三成がそう言い出すのを待っていた幸村と大山は早速身支度を整えて、秀吉の元へ挨拶に行った。


「秀吉公、今まで三成殿を匿って頂きありがとうございました」


「いやなに、三成は儂の息子と同じぞ。ここがあ奴の家で、戻って来る場所。…越後にはやらぬからの」


上座で今まで朗らかに笑っていた秀吉の声色が急に一段下がった、

やはり侮れない、と思いつつ、幸村は頭を下げ、急いで庭へ向かうとすでに騎乗していた三成を見上げてくすりと笑った。


「なんだ、何がおかしい?」


「いえ、この分だと越後へはすぐ発てそうですね」


「…俺は屋敷に戻って確かめたいんだ」


“何を?”とは聞かなかった。


――桃と過ごした三成邸。


屋敷へ戻り、少しでも何か感じ入るものがあれば、と思い、縋れるものなら何でも縋る。

そんな思いで日々を過ごした。


やっと身体が動くようになって、本当は今すぐにでも越後へ向かいたかったのだが…その前に一度屋敷へ――


「三成」


縁側から声をかけてきた女子に頭を下げた。


「…手厚き看病、ありがとうございました。私は桃姫に会って来ます」


「ええ。きっとまた…愛しく思うようになりますよ」


無言のまま馬を翻して走り出す。


城下町を通り、皆が驚いた顔を見上げて来つつも、背中に次々と色々な方面から声がかかる。


「三成様、桃は元気にしていますか?」


「最近桃を見かけませんが、また遊びに来るように言って下さいね」


…随分と街の人々にも好かれているようで、余計に混乱してくる。


「…姫君じゃないのか?」


「姫です。とてもお可愛らしい方ですよ」


追随する幸村がはにかみながらそう答え、空を仰いだ。


「とても朗らかでお元気で…お可愛らしくて可憐で…とにかく目が離せぬお方です。そのくせ亡霊を怖がって…ああ、早くお会いしたい」


「…」


話している間に屋敷に着き…出迎える使用人たちに挨拶を交わすより先に、寝室に向かった。


…そこに何かあるような気がしていた。
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