優しい手①~戦国:石田三成~【完】
…もう謙信は振り向いてくれなかった。


「どうしよう…、どうしよう、謙信さん…っ!」


――こんなにも愛してくれて、優しくしてくれて、待ち続けてくれてたのに――


その優しい手を拒絶したのは自分自身。


三成を失い、謙信を失い…2人共かけがえのない存在で、本来どちらかを選ぶことなどできないのに――


「謙信さん、待って…、待って…!」


クロから飛び降りて、少し急な傾斜をセーラー服姿のまま駆け降りる。


息を切らしながら走り続け、汗が全身を伝ったが、今姿を見失えば、もう見失ったまま。


「行かないで、謙信さん…!」


――追いついた。


後ろ姿を見て安心した瞬間、勢いよく転んでしまって、ついに泣き出してしまった。



「ごめんなさい、謙信さん…!でも私…私…っ」


「…怪我したの?見せて」


「!謙信さ…」



俯いていると謙信が肩で息をつきながら戻って来てくれて、前に膝をついた謙信に縋り付いて、嗚咽を漏らした。



「もう、駄目、なの…!?三成さんは、もう…っ」


「…誰も答えを知らない。だけど望みは薄い。桃、私は君を幸せにしたいんだ。君を正室に迎えたいんだ」


「…でも私…元の、時代に…」



――突然謙信が唇を塞いできた。


…久々に唇を重ね合い、その激しさが桃の心を打って、セーラー服の中に手が入るのを止めることもできなかった。



「三成の分まで君をずっとずっと愛すから…。生涯ずっとだ。側室は要らない。桃…君だけしか要らないんだ…!」


「けん、しん、さ……ん…」



抗えない。


普段はのんびり屋の謙信に激しい一面がある。


それを知ってはいたが、いざそれが自分にぶつけられると、こんなにも心地よいものなのか――


桃の視界が急にクリアになった。


「三成さんの分まで…?」


「彼の愛し方は知らないけど、私なりに私は全力で君を守って、愛し続ける。…駄目?まだ足りない?」


首筋に唇が這う。

吐息が漏れた時…耳元で謙信が囁いた。



「今宵は私と夜伽を。それで全てがわかるから」



待ち続けていた夜――
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