優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃と謙信が帰って来た時、兼続は2人を見て…首を傾げた。


謙信はいつもと同じように見えたが、桃は…完全に緊張していた。


「わ、私、お風呂入ってきますっ」


馬から飛び降り、走って城内へと来ていく桃にさらに首を捻っていると、謙信がふっと笑って肩を竦めた。


「今宵は桃と夜伽を共にするから、私の部屋には誰も近付かないように」


「殿…」


不安そうな顔をして唇を噛み締める兼続の肩を何度か叩き、共に城内へと戻って部屋に向かって歩きつつ、言い聞かせた。


「三成の生死はわからないけれど、桃は私との夜伽を了承した。その後は、桃が決める。私の正室となるか…三成を待ち続けるか」


「殿…三成はやはり…」


「連絡がないからわからないんだけどね。あまり期待しない方がいいかもしれないよ」


脚の止まった兼続を肩越しに見遣り、謙信はそのまま歩を進めた。


――その頃桃は湯殿について、今度は女中に手伝ってもらって、身体を擦ってもらっていた。


…謙信と夜伽を。


今までからくも拒み続けていた夜伽を謙信と。


三成に抱かれてから3か月。

その間、謙信は1度もキスしてこなかったし、ただ抱きしめてくれた。


だが今は違う。

キスしてきたし、〝正室”になってくれと言ってきた。


正室…

謙信の妻になるということ。


――歴史上の人物と?


「私ったら…」


「?桃姫様、何かおっしゃいましたか?」


「あ、いえ、なんでもありません…」


かなり遠出をしたので往復に時間がかかり、そして夕刻が迫ってきている。


つまり…夜伽の時間も迫ってきている。


「どうしよう…」


湯から上がって白い浴衣を着て、足音を鳴らしながら歩いていると、兼続と出会った。


その表情は…複雑そうな顔をしていた。


「桃姫…」


「兼続さん…どうしたの?」


「…三成の分まで殿が愛して下さいます。どうか三成のことはもう、お忘れ下さいませ」


そう言うと脱兎の如く駆けて去って行ってしまった。


――三成さん…本当にもう…居ないの?


もう、待っていても駄目…?
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