優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃が中へ入ると、謙信は何かの本を読んでいた。


「あ、お饅頭だ!」


「目ざといね。さあお食べ」


早速隣に座って手を差し出すと掌に白餅の饅頭を乗せてくれて、ぱくっと食いつくと、謙信は微笑んでいた。


「み、見ないでほしいな…」


「どうして?桃はいつも美味しそうに食べるから見ていて楽しいんだよ」


傍らには徳利と盃。

また一人酒をしていたことを咎めようとして盃に手を伸ばすと、すかさずそれを遠ざけられて、桃に向かって差し出してきた。


「一献注いでもらえるかな」


「あ、は、はい…」


――異常に色気が漂っている。


浴衣から覗く鎖骨や喉仏、片膝を立てている脚は細いが強靭な筋肉がついているのが見てとれて、徳利を傾ける手が震えて、酒が溢れそうになった。


「おやおや、どうしてそんなに緊張しているのかな?」


「え、だって……なんでもありませんっ」


――笑みながら、ぐいっと飲み干した。


謙信もまた幸せそうな顔をして、今度は桃に手を伸ばした。


「さあ私の膝においで」


「…はい…」


しおらしく言われるがままに膝に座ると、桃の身体からいつもとは違う香りがして、顎を取って顔をこちらに向けさせると、すんと鼻を鳴らした。


「桃の香りがするね。三成の屋敷でも何度かこの香りがしたけど…特別なの?」


「…特別だよ。だって……」


「私と夜伽をするから?」


「…うん…」


粉で白くなっている桃の唇を指で拭うと…濡れた瞳をしていた。


「…私が欲しい?」


「謙信さんが…私を欲しいんでしょ?」


「言うね。で、三成からどんなことをされたのか知りたくも聞きたくもないから私の好きなようにさせてもらうけど、いいかな?」


――行燈の灯りを指先で消した。


そうしながら桃の身体を軽々と抱き上げて、隣室へと移動し…壊れ物を扱うかのようにして床に下ろす。


…桃は未だに揺れていた。


待てない自分を三成は、許してくれるだろうか――?


「桃…三成を忘れろとは言わない。だけど、君は必ず私に夢中になる。預言しておくよ」


「謙信さ、ん…」
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