優しい手①~戦国:石田三成~【完】
夜明け前に目覚めた時…謙信は珍しく、眠っていた。


特別な姿を見れたことが嬉しくて、いつもとは逆の立場になって、謙信の白皙の頬に触れた。


「…こら」


「あ、ごめんなさい…起こしちゃった?」


「君が私を張り切らせるから体力を使い果たしちゃったよ。でももう大丈夫。…また、する?」


「だ、駄目!やだ、謙信さ…ん………ん…」


優しく唇が重なり合い、舌の動きに陶酔してしまって結局は謙信の思うが儘。


「…三成の生死は今後も調べるよ。君にずっと笑っていてもらいたいんだ。ずっと私の隣で」


「ありがと…。でももう…いいの。私はこの時代で、謙信さんと生きてく。幸せにしてくれるんでしょ?」


――何故かそこで謙信の顔が真顔になった。


驚いて見つめていると、身体を起こし、机の上に置いていた文のようなものを差し出した。


「これは関ヶ原に出立した時、三成から預かった桃宛ての手紙だよ。私は内容は知らないけど、知らないままの方がいいから言わなくてもいいよ」


「…みつ、なりさんが…私に…?」


声の震えた桃を一人部屋に残し、謙信が去って行く。


裸のまま正座して、がたがたと指が震えるのをなんとか抑え込みながら、ゆっくりと開いた。


――達筆すぎる字。

桃もこの時代で多少勉強をして、時間をかけて読めるようにはなっていたが…その潔癖さがうかがえる真っ直ぐな字で、桃の心を打った。


「三成さん…!」



『愛しの桃へ――


俺がもし帰って来なかった場合は謙信の正室に。


俺がもし無事に帰ってきた場合は、俺の妻に。


例え離れている時間が長くとも、愛している。


永久に―― 』



――文がくしゃりと折れ曲がる。


桃は…声を押し殺して、泣いた。


「三成さん…っ、私……三成さんの言うとおりに、します…」


謙信の正室に。


三成は、もう忘れなくてはいけない男。


「三成さん…!」


そうわかっていても、恋慕は止められない。


――あの不器用な笑顔。


不器用な言葉。


優しかった、手――


全てがまだ、忘れられずにいる。
< 423 / 671 >

この作品をシェア

pagetop