優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃は、三成からの文をバッグの一番底に隠すようにして入れて、ファスナーを閉めた。


「…これで三成さんのことは…もう忘れる。謙信さんにも、失礼だから」


手鏡で顔を映すと…目は真っ赤だった。


「こんな顔じゃ泣いてたことがバレちゃう…」


――部屋を出て湯殿に向かっていると、正面からお園が向かってくるのが見えて、桃の脚が止まった。


「お園さん…」


「桃姫様…。謙信様のご正室におなりになるそうで。誠におめでたく存じます」


その場に正座して深々と頭を下げたお園の傍らに桃も正座をして、三つ指をついているその手を握った。


「三成さんのこと…ごめんなさい。私のせいで三成さんが…」


「…いえ…。三成様はあなた様を想い、喜びを感じながら戦へ向かったはずです」


――三成とお園が男女の関係にあったことはもう遥か昔のこと。

それでもお園は未だに三成を想い、目じりに涙を溜めている。


「本当にごめんなさい…」


「桃姫様、そこまでにしましょう。私は三成様の生死がわかるまでは、あの方を信じております。…待ち続けて、おります」


…ずきりと胸が痛んだ。


まるで三成を待てずに謙信の正室になることを選んだ自分を責められている気分になって唇を震わせながら黙り込んでしまうと、お園がそれに気付いて額が床に突きそうな勢いでまた頭を下げた。


「も、申し訳ございません!」


「ううん、いいんです。お園さんの言うとおりだもん。私は…三成さんをもう待てない。待っていたら…」


待っていたら、今度は謙信が離れて行ってしまう――


2人共を愛している。

両方傍に居て欲しかったけれど、状況がゆるさない。

あんなに優しい謙信の手を離せない。


「お園さん、一緒にお風呂に入らない?」


「わ、私でよろしければ…」


「三成さんのこと、沢山教えてほしいの。私、知らないことだらけだから」


…三成が行方不明になって、少しやつれ、大人っぽくなって、

無理矢理笑った顔が痛々しくて、握った手を強く握り返した。


「あなた様の方が私の知らない三成様を沢山知っておられますよ」


また、涙が溢れた。
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