優しい手①~戦国:石田三成~【完】
『上杉謙信が正室を迎える』


生涯独身を貫くかと思われた謙信の突然の決意――


越後の民は大いに沸いて喜んだが、奥州の伊達政宗はこの報に鼻を鳴らした。


「謙信め」


政宗もまた桃を正室にと望んだ男。

最初は違う時代から来た桃の知識を我が手にして天下統一を目論んでいたが…その考えは徐々に消えて行った。


だが、謙信や三成程に桃を愛しく想っていたかと言うと、そうではないような気がした。


「ふん、仕方ないが祝言には参加してやる。小十郎、成実、準備を」


ふてくされて上座に寝転がっていると…


「政宗様…」


「!愛…」


――幼馴染で、昔から決められていた婚約者。


その名の通り愛らしく可憐でおしとやかで、正室にするには遜色ない品格を備え持っている姫――


不安そうな顔をして、政宗の前に座った。


「また…越後へ行かれるのですか?最近奥州に居られることの方が少なく、愛は寂しゅうございます…」


「…仕方なかろう。今や越後とは同盟国。それに祝言を挙げるとなればあの面に一発ニ発程拳を叩きこまねば気が治まらぬ」


愛もまた知っていた。


政宗が、謙信ではなく“桃姫”という姫に会いに行っていることを。


「…政宗様は愛のことをどう思っておられるのですか?愛は…」


「行って来る。その話はまた後ほど」


――あの眼帯の奥…未だに見せてくれない。


幼い頃はいつも一緒だったのに、今は離れようとしている節があり、後ろ姿を見送りながら袖でそっと涙を拭った。


――またその時…


三成と幸村は休む間も惜しんで越後へと向かっていた。


2人共気が急いていて、三成はとにかくいち早く“桃姫”と会いたくて、


そして幸村は恐らく心配してくれているであろう桃から抱き着かれたりするかもしれないという期待に胸いっぱいになっていて、また馬の腹を蹴る。


「休憩を挟まなくても大丈夫ですか?」


「ああ、今は早く越後に行きたい。記憶のない自分が気持ち悪い」


――表情が険しい。


桃の前ではあんなに笑っていたのに――


「早く…早く…!」


前へ前へ。
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