優しい手①~戦国:石田三成~【完】
傷は痛んだが、それよりも前に進むことを選んで、途中何度も馬を替えて走らせて走らせて…ようやく越後の領内へと入った。


「…」


この光景を知っている。


幸村から道中やんわりと聞かされた桃とのなれそめ――


桃の親御を見つけるために共に越後へ来たこと…何となくしか思い出せなくて、頭を押さえた。


「三成殿?」


「…いや…何でもない」


そう言いながら馬の腹に蹴りを入れて先を急がせる。


――そして城はすぐに見えた。


幸村の目には城下町の人々が浮足立っているように見えて、皆が一様に笑顔なことが気にかかっていた。


戦になるのに皆は笑っていて、嬉しそうにしている。


「…何が起こっているんだ…?」


そのまま城下町中を通り、城についた時…見知っている門番が腰を抜かしそうな顔をして駆け寄ってきた。


「幸村殿!そ、それに…」


黙って門番を見下ろしている三成のことをまるで亡霊でも見ているかのような顔をして凝視し、2人の前に立ちはだかるようにしてそれ以上の前進を拒んだ。


「し、しばしここでお待ちを!」


「?わかった」


何が起こっているのかわからずにとりあえずその場で待機していると坂を転げるようにして馬で駆け降りてきたのは…


「兼続殿!」


「幸村!生きていたか!…それと…」


「…兼続」


――兼続の顔もまた信じられないものを見ているような顔をして三成の袖を掴む。


「生きていたか…三成!」


「傷が癒えて、ようやくまた戻って来れた」


胸元をはだけさせ、正則から受けた傷を見せると…兼続の顔が歪んだ。


「惨い傷だな…。とにかく三成、幸村、今我が越後は歓喜に沸いている」


「途中城下町を通り、皆が浮足立っているのを見ました。何が起こっているのですか?」


こんなタイミングで三成たちが戻って来るとは…。


――兼続は笑顔を作り、2人の肩を叩いた。


「殿が桃姫をご正室にお迎えになる。これで桃姫は真実越後の母となるのだ。喜べ!」


「!も、桃姫が…殿のご正室に…」


「…正室…?」


自分とは相思相愛だったのでは?
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