優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信の胸に頬を寄せて乳香の香りを吸い込んでいると気が落ち着いた桃は身体を起こし、微笑んでいる謙信の唇にキスをした。


「おやおや、積極的だね。気分は落ち着いたの?三成はどこに?」


「知らない。まだ私の部屋に居るかもしれないから…ここに居ていい?」


「それはいいけど、早く尾張に戻ってもらいたいなら私から強く言っておくよ?」


謙信がそう言った時――


幸村の驚く声がして、兼続が戸惑いつつも中に声をかけてきた。


「殿、千利休殿が…」


「これは珍しい御仁が来たね。通してあげて」


「それが…三成もご一緒ですがよろしいですか?」


「いいよ。桃、いいよね?」


「…うん」


膝から降りようとしたが、謙信が強く腰を引き寄せて来てまた胸の中に倒れ込む。


…だが三成の顔は見たくない。

なので謙信の背中に腕を回し、横向きに座ったまま顔を隠していた。


「上杉殿、お久しぶりでございますな」


「ええ。さあ中へ」


にこやかに笑い、中に促すと、利休は顔を隠してこちらを見ない桃に中に入りながら呼びかけた。


「桃姫もお久しぶりですな。この利休を覚えておられますか?」


「大坂城で…」


好々爺は目じりの皺を深くしながら笑い、次いで入って来た三成を隣に座らせると、固い表情のこの男の膝を叩いた。


「上杉殿のご正室におなりになるとか。誠におめでとうございまする」


「ありがとう。利休さん、どうしたの?こんな遠くまで…」


――三成はじっと桃を見つめていた。


桃はその視線から逃れようとまた顔を隠した。

謙信は桃の背中を撫でてやりながら首筋に口づけをして、三成を挑発する。


「実はこれを上杉殿へ。秀吉公からの文にございます」


「秀吉公が、私に?」


兼続が受け取り、それを上座の謙信に渡して、桃を膝に乗せたまま文を開き、目を通した。


その表情は…みるみる苦笑に包まれた。


「謙信さん?」


「“三成を秀吉の大使として任ずる。織田信長公との戦が終わるまで越後にて赴任させるべし”。…これで三成はここに留まらざるを得なくなったね」


魂が引きつる。
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