優しい手①~戦国:石田三成~【完】
城下町を迂回し、あぜ道をゆっくりと進んだ。


――三成に触れられている腰が熱くて、


三成ではない三成に少しでも期待してしまっている自分が性懲りもなく、クロから飛び降りると小川に脚を浸した。


「冷たいけど気持ちいー。三成さんも入ってみたら?」


三成を誘ったのにクロが小川に入り、肝心の三成は桃の隣に腰を下ろしてお転婆な姫君に苦笑していた。


「かつてこんなことがあったような気がする。気のせいだろうか」


「あったかもね。そんでもってやらしいことされたかもね」


脚で水を跳ねさせながら言ってみると…案の定この堅物の顔はだんだん赤くなってきて、口元を手で隠す。


「そんな…」


「だって夜伽だよ?そこまでしちゃったのに忘れるなんてねー」


――もう割り切るしかない。

“思い出してほしい”とどこかで思いながらももう謙信との祝言は決まっていて、


だからこそ、“かつてあなたと私にはこういう思い出がありました”というのを、三成に知ってもらいたかった。


「夜伽…桃姫と俺が…」


「三成さんって堅物のくせにすごく情熱的なところがあって、優しかった。三成さんの手が大好きだったなあ」


――まるで故人を偲ぶような口ぶりにまた胸が締め付けられて…

恐る恐る手を伸ばし…桃の肩を抱いた。


「や、やめてよ…」


「謙信との祝言は考え直してほしい」


「!な、なんでそんなこと…」


三成の瞳に炎が燈った。

“やめて”と言いながら振り払えない桃に顔を寄せて、唇を奪おうとする。


「やだ、駄目…、駄目!」


「そなたの“駄目”…何度も聞いたことがあるような気がする」


「!」


間近で見詰め合う。


揺れる桃の瞳に、まっすぐな三成の瞳。


だが…今目の前にいるのは、桃の知っている三成とはまだ程遠い。


「戻らなきゃ。三成さん、離して」


「離さぬ。桃姫、俺を見ろ」


「や、やだ。や…っ」


ぎゅうっと抱きしめられた。


耳元でせつない吐息が聴こえて、桃の頭は混乱して涙がにじんでくる。


「三成さんじゃない…」


また、繰り返す。
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