優しい手①~戦国:石田三成~【完】
こんな風に女子を半ば無理矢理に抱きしめたのは…はじめてだった。


いや、はじめてではないのかもしれない。

かつて記憶があった時――桃にこうして迫って、抱きしめて、無理矢理唇を奪ったことがあるかもしれない。


――三成は桃を離さなかった。


立ち上がった桃を身体に埋め込むようにして抱きしめて、互いに何も話さないまま数分。


…あれだけ桃の心を煩わさない、と誓ったはずなのに。


身体が勝手に動いて勝手なことをして、ゆるゆると桃を離すと瞳を伏せて俯き、長い前髪で表情が隠れた。


「…すまぬ」


「…ううん。三成さんに抱きしめられたの…久しぶりだったなあ」


ぽつりと呟いた桃。

振り向いた時――クロが後ろ足で水を掻いて、それが盛大に桃にかかり、頭から水びだしになった。


「び、びっくりしたあ…。こらクロちゃん!悪戯しちゃ駄目でしょ!」


クロを叱り、尻尾を掴んでいる桃の白いセーラー服が透けて、ブラが見えた。


また一気に顔色の変わった三成が視線を宙にさ迷わせながら自身も盛大に水を被ったため、腕を抜いて絞っていると…


「三成さん…そ、その傷…っ」


「ああこれは…正則に斬られて…」


桃が両手で口元を覆い、肩口から腰骨まで達する刀傷から目を離せずにかたかたと身体を震わせた。


「その傷…酷い…!だ、大丈夫なの!?」


「まだ痛むが問題ない。…心配してくれるのか?」


ふっとはにかんだ三成に…その笑い方がとても懐かしくて、背中を向けて大きく深呼吸をする。


「心配だよ。その傷すごいもん。…っくしゅん!」


「風邪など引かれては俺が謙信に怒られる。戻ろう」


桃が先に騎乗し、続いて前髪をかきあげながら三成が騎乗し、走り出す。


「…痛かった…でしょ?」


「斬られたことすら気付けなかった。これのせいで俺は桃姫のことを…」


こんな傷を負わなかったら、越後に戻って共に夫婦となっていたかもしれないのに。


「…うまくいかぬものだ」


「三成さん…」


桃の腰を抱く手が熱い。


三成に腰を抱かれる手が優しい。


…思い出す。


優しい手を――
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