優しい手①~戦国:石田三成~【完】
もう恥ずかしがることでもないのだが…


横では謙信がさっさと脱ぎだしていて、慌てて背を向けて見ないようにしていると、くすくすと笑う声が聴こえた。


「ずっとそこでそうしてるつもり?せっかく明るい所で君の裸を見れると思ったのになあ」


「も、もうっ、謙信さんのエッチ!」


「早く入っておいで」


のろのろと浴衣を脱いで下着を脱いで、タオルで身体を隠しながら中へと入った。


…もちろん謙信は自身の身体を隠したりしていない。

両腕を伸ばし、長い脚を軽く組み、気持ちよさそうに瞳を閉じて天井を仰いでいた。


「…怒らせちゃった?」


「え?あれしきでは怒らないけど…複雑ではあるよ。桃、隣においで」


「う、うん」


軽く湯を被って桧の風呂に入り、謙信の隣に座ると肩を抱いてきた。



「祝言はやめよう」


「…え!?」



――突然そう切り出されてつい大声を上げてしまい、口を手で塞ぐと謙信は指先で桃のうなじを撫でながら憂いに満ちた瞳でため息をついた。


「やめよう、というよりも延期が正しい。まだ君の親御も取り戻せていないし、何よりも君自身がまだ迷ってる。私はそういう状態で君との祝言を挙げたくないんだ」


「そんな…私、違うよ。謙信さんと本当に…」


「うん、わかってる。とても嬉しいけど、私の中の義がそれを許さないんだ。ひとまず親御と接触を図る。そして取り戻して、その後祝言を挙げよう」


――自分のことももちろんだが、両親のことも考えてくれていた謙信の気持ちが嬉しくて、つい思いきり抱き着いてしまい、


なし崩しに唇を重ね合うと浴槽の縁まで追い詰められて、至近距離でにこりと笑った。


「祝言は延期だけど、君との夜伽は延期しないよ。毎日君を抱いて、毎日鳴かせて、毎日私に夢中にさせてあげる」


「謙信、さ………ん…」


――三成のことは頭から離れないけれど、今は謙信の方が勝っていて、こうして包み込んでくれて、夢中にさせてくれる。


…戻って来なければよかったのに。


記憶を無くして、何を取り戻そうとして戻って来たのだろう?


もう、この想いを捧げる相手は、あなたじゃないのに――
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