優しい手①~戦国:石田三成~【完】
お互い団子に手をつけなかった。


ずっと見つめ合って、魂に刻み込まれている愛を引きずりだすかのようにして見つめ合い…数分の後、視線を逸らしたのは…桃だった。


「…食べよ。お腹空いちゃった」


「謙信は…何をしている?」


「謙信さんはお堂に居るよ。今から私も…」


「もう少しここに居てくれ」


――こちらの視線に耐えられないのか、団子を手にしてものすごい勢いで食べ始めて、途中むせて咳き込み、背中を撫でてやる。


「ご、ごめんなさ…、ごほっ」


「相変わらず食道楽だな。俺の屋敷でも食材の減りが早いといつも大山が愚痴を……………」


「みつ、なりさん…き、記憶が…?」


――口から突いて出た言葉。


喋りながら三成もそれに気付き、絶句した。


絶句しながらまた桃を煩わせてしまっていることにも気付き、桃に背を向ける。


「三成さん…記憶が…」


「今のは…その帳面に書いてあったことを言っただけだ」


「嘘。嘘つかないで!三成さんが嘘つくわけないもん。…思い出したの?ちょっとずつ…思い出せそうなの…?」


桃から肩に触れられて、じんじんと熱くなってきて、そっと手を重ねた。


…小さな手…


指を絡めて愛し合った、たった数日の蜜月。


「嘘などついていない。そろそろ戻った方がいい。いくら謙信でもいい思いはしてないだろう」


冷たく突き放すと、肩に触れている手が震えた。


「…ひどい、よ…」


震える声が鼓膜を振動させて、桃が急に立ち上がり、隣室の寝床にしている部屋に入って掛け布団を掴むと、それを投げつけてきた。


驚いて目を見張っていると桃の目は真っ赤になっていて、必死に泣くまいと堪えながらか細い声で、呟いた。


「その布団…私の匂いがするでしょ?」


「…」


「本当に忘れちゃったの?だけど今…ちょっと思い出したよね?もう…このままのつもり?せめて…せめて思い出して。そしたら私…っ」


「…桃…っ!」


――掛け布団を膝に乗せたまま、桃の手を強く引いて、倒れこんできた身体を強く抱きしめた。


嗚咽が漏れて…背中に、細い腕が回ってきた。
< 443 / 671 >

この作品をシェア

pagetop