優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成の手は…大好きな優しい手のままだった。


――薄暗い部屋に2人言葉もなく――それでも離れがたく狂おしい想いが募る。


「…私…謙信さんのお嫁さんになるの」


「…知っている」


「でも三成さんの記憶が戻るようにお手伝いするから…だから頑張ってほしいの」


身体を起こして見上げてきた桃の唇から視線を逸らすことができず、顎を取って親指でふっくらとした下唇に触れた。


「何か思い出す度に口づけを1度。それなら何とか努力する」


「謙信さんに怒られちゃう。でも早く元の三成さんに戻ってほしいから…聞いてみるね」


俯いた長い睫毛に陰影が差して、少し喜んでいるように見えて、少し悲しんでいるように見えた。


「謙信は…そなたを幸せにしてくれているか?」


「うん。エッチだけど、とっても優しいよ。…またね」


去っていく。

こんな自分に会いに部屋まで来てくれたことがとても嬉しくて、掛け布団に沁みついた桃の香りを吸い込み、畳に倒れ込んだ。


――毘沙門堂の前には幸村が立っていた。


「桃姫、今までどちらに?」


「えーと、お散歩!幸村さん、後でクロちゃんにご飯あげにいこ!」


「御意!」


嬉しそうに笑いかけてきて、桃も笑顔になりながらお堂の中に入ると、乳香の香りと蝋が溶ける匂いと、謙信の低くて優しくて心地よい声が響いていた。


邪魔にならないように離れて座り、瞳を閉じる。


三成が無事に帰ってきたこと、感謝しなければ。


「お帰り」


「あ、うん。あの…三成さんに会いに行ってたの」


「そうだろうね。やっぱり私は2番手なのかなあ」


ごろりと横になって悲しそうな声を上げたので、膝をつきながらにじり寄って同じように隣に寝転ぶ。


「私は謙信さんの奥さんになるんだよ?でも…三成さんの記憶が戻るようにお手伝いしたいの。駄目?」


柔和な目尻が綻んで、長い指が頬を撫でてきた。


「いいんじゃない?実際問題何もかもが灰色のままだから、白黒つけたいし。桃…昨晩は、良かったよ」


「も、もう…っ」


ひそ、と囁いた謙信の頬を両手で挟んで軽く叩くと、2人で忍び笑いを漏らした。
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