優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成のキス――


余韻を残さず、畳み掛けるようにして舌を絡めてきては吸い尽くす。

考える力を奪い、いつもの理知的で冷静な“石田三成”の姿をかなぐり捨てて、情熱的に攻めてくる。


…懐かしかった。

懐かしくて、抵抗できなかった。


「…は…」


「甘い…。覚えがあるぞ…俺はそなたの唇が欲しくて欲しくて、いつも見ていた。桃……姫…」


“姫”という呼称が外れかける。

力強く桃の両肩を抱き、また貪るようにして斜めに顔を寄せて、音を立てて舌を絡めて、そして服の中に手を入れようとして、止められた。


「駄目っ、私は、謙信さんのものなの。駄目…っ」


「祝言の約束を取り付けただけだろう?そんなの…口約束でしかない。俺は認めない。もう謙信から抱かれないでくれ、桃……姫…」


いっそのこともう“桃”と呼んでほしかったが、互いの立場がぎりぎりのラインでせめぎ合い、それを許さない。


「三成さんが今まで帰ってこない間に謙信さんがどれだけ私を待ってくれていたか…忘れててもわかるでしょ?駄目なの。もう…キスしないで」


――言った傍から俯く桃の顎を取って上向かせて唇を重ねる。

何度何度そうしていても飽きず、これが自分のものだったことを意識下で再認識して強く舌を吸うと、身体が畳に倒れ込んだ。


すかさず覆い被さって顔の横で両腕を封じて、指を絡めた。


「きっと思い出してみせる。謙信と刃を交えても、そなたを求め続けるぞ」


「…っ、やだったら…。駄目、駄目だよ…」


――何度も繰り返される“駄目”は聞き覚えがあって、そう言われる度に苦笑して暴走する自身を止めて宥める自分の姿が脳裏に鮮明に浮かんだ。


「そなたに何度も“駄目”と言われた。…そうだな?俺を何度も止めただろう?」


「…思い、出したの…?」


無理矢理絡めた指をきゅっと折り曲げて、絡めてきてくれた。

それだけで嬉しくて、小さく頷いて顔を寄せ、耳元に息を吹きかけた。


「や…っ」


「耳が弱いことも思い出した。俺が発見したのではなく、謙信だ。それが…悔しかったことも思い出したぞ」


徐々に徐々に鮮明になってゆく。


三成が、目覚め始める。
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