優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信が自室で眠ってなくてよかった――

桃の部屋は隣で、謙信は本当に一人になりたい時に使っている部屋で眠っていたので、誰にも邪魔されない。


キスが止んだと思って瞳を開けるとまたしてくる。

瞳を閉じてとろけるようなキスを味わっていると、突然止んで…瞳を開けると、またしてくる。

その繰り返しで、だんだん桃の息が上がってくる。


「や、やだ…なんか…」


「…興奮してきちゃった?」


Tシャツの中に手が潜って来て、三成の時は止めたが…今は止める理由が見つからない。

だが真昼間なことに気が付いて慌ててシャツを元に戻した。


「明るい所はいや?じゃあ…蔵にでも行く?真っ暗だよ」


「絶対やだ!謙信さん、今日は私が夜ご飯作るから食べてもらっていい?腕を奮うから」


「本当に?桃は料理もできるし可愛いし…床上手だし、最高だね」


耳たぶにキスをしてきながら低く艶やかな声で囁かれて、起き上がろうとしたのにまた脚が萎えた。


「それは謙信さんでしょ?どこで覚えたの?」


「本とかで。私は天才だから実践しなくても大抵は出来てしまうんだ。でも君には全て実践するからね」


…にこにこ。

そこに僅かな引っ掛かりを覚えて白い頬をむにっと引っ張る。


「“本とか”?“とか”ってなに?…私がはじめてってわけじゃないよね?…なんかちょっとヤだな…」


「気にすることはないよ、私の魂をがんじがらめにしているのは今も昔も君だけだからね。どれ、私も夕餉作りを手伝おうかな?」


腰を上げた謙信に慌てて手を振って後ずさりした。


「駄目!いきなり上手に作られても落ち込んじゃうからっ。行ってきますっ!」


「ふふ、行っておいで」


――また一人になって、桃の唇を奪ったと思われる三成に僅かに嫉妬を覚えた。


ごろんと寝返りを打ち、ぼろぼろになりながらも戻って来た三成に、羨ましさも覚える。


「もし私が同じ状況だったら…桃、君は三成と同じように私を気にかけて、私にまた惹かれてくれるのかな?」


――未だ“漁夫の利”感が否めず、謙信の心を煩わせ、祝言を延期させた。


完全なる勝利。


それを求め、また眠りに落ちた。
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