優しい手①~戦国:石田三成~【完】
台所に向かっていると途中幸村と会い、笑顔で駆け寄ってきては片膝をついて見上げた。


「どちらに?拙者もお供いたします」


「お台所に行くの。今日のお夕飯は私が作るから幸村さんの分も作るね!」


「!そ、それは楽しみにしております!では拙者がお手伝いを…」


「駄目駄目、私一人で作るから!」


断ったのににこにこしながらついて来るので仕方なく一緒に台所に入り、元の時代ではポピュラーな調味料の醤油を見つけてつい大コーフンした。


「お醤油がある!お肉もあるし…どうしよう、味ご飯にしちゃおっかな!」


台所から人を追い遣り、大量の貴重な食材や調味料に瞳を輝かせている桃が可愛らしく、置いてあった包丁を手にくるくる器用に回しながら葱を手にする。


「最近は南蛮から様々な珍しいものが入ってきております。殿は質素な食事を好まれる方ですが、時に大判振る舞いをすることもあってか常に食材は大量に用意されています」


「へえ!これだけあったら味ご飯もできるしお味噌汁と、あとお魚!」


――言った傍から幸村が“御意”と言って葱をものすごいスピードで切り始めて目を丸くしていると、やっぱり我慢できなくてやって来た者が居た。


「幸村が居て良くて私は駄目なの?」


「あ、謙信さん!お着物が汚れちゃうから来ちゃ駄目!」


清楚に見えるが着ているものはいつも超一流のものだ。

万が一醤油染みでも作ったら大変だと思って腕を組んで微笑んでいる謙信の背中を押して台所から追い遣ると、頬が膨らんだ。


「どうして私が駄目で幸村は…」


「楽しみにしてて!ね、お願いだから!」


「じゃあ今日は久しぶりにおめかししてほしいなあ。だったら我慢するよ」


「わかったから!じゃあね、またね!」


戸を閉めてようやく一息つき、幸村は幸村で桃と2人きりになれて緊張しつつも大興奮。


「ま、また桃姫の艶やかなお姿を拝見できるのですね」


「たまにはいいかな。…三成さんも帰ってきたことだしね」


そう言いながら手を動かし始める。


三成――

記憶が戻ってほしいと思う反面…また桃を独り占めされるのでは、という嫉妬心も沸き起こり、幸村を苦しめた。
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