優しい手①~戦国:石田三成~【完】
幸村が手伝ってくれたおかげで予定よりも早く準備が終わって、


桃はその脚で湯殿に向かい、そして部屋に戻って鏡台の前に座った。


「お化粧するの久しぶりだなあ…」


白粉を薄く塗り、紅を引いて、つけ髪を付けて…


そして目が見えなかった間は気付かなかったが、ものすごく豪華な打掛を謙信から贈られていたので、その緋色の打掛を着て鏡の前でくるくると回った。


まずは謙信に見てもらおうと思って部屋を出ると…

いつからそこに居たのか、幸村が部屋の前に背を向けて座っていて、見上げて来ると、一気に顔が真っ赤になった。


「桃姫…!お可愛らしい…!」


「へへ、誉めすぎだってば。謙信さんや景勝さんたちにも見てもらいたいなー」


「せ、拙者がご案内いたしましょう」


恭しく桃の手を取って、しずしずと歩く桃の姿に口から心臓が飛び出そうになって景勝の部屋まで案内しようとすると…


「…桃姫?」


「あ…三成さん…」


――さっき無理矢理キスをしてきた三成。

…唇の端が切れていて赤くなっていた。


だが…赤くなっていたのは、唇だけではなかった。


「三成さん…顔が…」


「!み、見るな!」


耳まで真っ赤だ。

背を向けて手で顔を仰いでいるが、耳は隠しようがなく、その姿がどうしようもなく可愛くて、後ろから背伸びをして耳を引っ張る。


「お姫様みたいでしょ?」


「う、うむ…。可憐で…可愛らしい」


「て、照れながら言わないでよっ。じゃあ私、謙信さんに見せて来るね」


その後ろ姿を見送った。

いつもの活発でお転婆な桃とは違い、女子らしくおしとやかで、美しい。


「桃…」


――さっき謙信が昼寝をしていた部屋を訪れると謙信はのんびり欠伸をしていて、桃の艶姿を見ると瞳を和らげた。


「ああ、よく似合ってるね。部屋に違うのがかけてあったと思うけど?」


「ううん、これがいいの。この色すっごく綺麗」


隣に腰かけて嬉しそうにしていると、肩を抱いて顔を寄せてきた。


「祝言の日には一国が傾くほどのものを用意させるよ。どんなのがいいか考えておいてね」


ふわりと微笑んだ。
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