優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃がおめかしをしていると聞きつけた景勝と景虎の養子コンビが秘密の部屋に駆け込んできて、謙信の唇が尖る。


「ああ、私の聖域が…」


「これはお可愛らしく美しい!」


すっかり桃に傾倒してしまっている景虎が桃の手を握り、顔を近付けた。


「ちょ、トラちゃん、顔が近い近い!」


「こら、そちらの姫は私の姫なんだからあんまりべたべた触るとお仕置きするよ」


「!こ、これは失礼…いたしました…」


俄然人見知りする景虎が桃に惚れていることは十分承知だが…謙信はそれよりもさっきからずっと黙っている景勝に目を遣り、微笑みながらじっと見つめた。

…全く謙信の視線に気付かず、桃に見入っている。


「私が留守の間よく桃を守ってくれたね。ありがとう」


「…いえ…」


「桃は一人で眠れないから君が一緒に寝てあげたんでしょ?悪戯しなかった?」


同じ系統の美貌が少し赤くなり、桃も同じような顔色になって慌てまくって否定した。


「な、なんにもないよ!でも私…迷惑かけちゃったかな」


艶姿でしゅんとなった桃に何度も躊躇しながら手を伸ばして、小指を握った。


「そのようなことはありません。………失礼いたします」


寡黙な男が皆の視線に耐えられず部屋を足早に出て行き、代わりに兼続と三成が顔を出し、謙信がため息をついた。


「引っ越ししなきゃ。今度はどの部屋にしようかなあ。桃はいつでも来ていいんだからね」


「殿、どの国の美姫も桃姫には適いませぬな!ああ自慢して回りたい!」


三成だけは相変わらず桃を直視しないようにして桃の小さな手をずっと見ていたが…その変化に気付いた。


「桃姫…爪の色が…」


そう言われて皆が桃の指に視線を集中させると、袖の中に指を引っ込めた。


「ま、まだ実験中だから…」


「いつもとはちょっと違うと思ってたけど…どうしたの?」


謙信に手を取られて仕方なく皆に爪を見せた。

その色は何かで染めたような赤い色。


「お庭に咲いてる花の汁を絞ってマニキュアみたいに爪に塗ってみたの。…どかな?」


マニキュアの意味は分からなかったが、皆がまたでれっとなり、賛同してくれた。
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