優しい手①~戦国:石田三成~【完】
いつものように毘沙門天の像の前に座った。


桃は正座、謙信は座禅。

複雑な印を組み、瞳を閉じて毘沙門天に祈りを捧げる謙信の姿は神聖でいて、美しい。


桃は集中できずにその横顔を見つめながら…瞳を揺らしていた。


お園が“相談がある”と言って三成の部屋に上り込み、またそれを三成もすんなりと受け入れた。


…あんな人だっただろうか?

あんな風に自分以外の女にも優しくする男だっただろうか?


「…気が散ってるね。そんなに気になる?」


「!…ごめんなさい、集中できないよね、私、出て…」


「そんなことないよ。毘沙門天は私と君が共に一緒に在ることを望んでるんだから、いつも私の隣に居てほしい。おいで」


手を差し伸べられて、その大きな手を取って膝に上がって抱き着くと背中に腕を回してしがみついた。


「…気が多い女と思ってるんでしょ?」


「ふふ、私と出会った時からそんな感じだったから、悪くは思ってないよ。私も三成もいい男だからね、選べないのはわかるから」


冗談なのか本気なのかよくわからない間延びした声に笑わされて顔を上げると、頬を指先で撫でられて、最終的に唇に行きついた。


「お園は今でも三成を想っている。なりふり構わず三成に迫るかもしれないね。君はどうするの?」


「…どうもしないよ。三成さんがお園さんの気持ちに応えるなら…私…」


「私だけを見てくれる?……俺だけを、見てくれる?」


――謙信が“俺”と言ったことにものすごく驚いた桃が目を見張ると、すさかず唇を奪われて、押し倒された。


「謙信さ、ここ、お堂…っ」


「君は毘沙門天と結縁してるし、私と契る姿をここで見てもらおうよ」


「謙信さん…っ、やだ、聞かれちゃう…っ」


「いいんじゃないの、聞かせてあげようよ。…ねえ、さっきの私はどうだった?“俺”って似合ってた?」


――正直に言えば、似合ってなかった。

柔和な美貌に“俺”は似合わず、驚きはしたが、吹き出した。


「似合ってないよ。でもちょっとドキドキしたけど」


「ふふ、じゃあ成功だ。鳴く声を聞かせてやろう、三成に」


打掛が脱がされる。

何もかも――
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