優しい手①～戦国：石田三成～【完】

別離と決意

三成との関係は無かったことにする、と決めた。


この戦国時代で謙信の妻になる、と決めた。


…もう、迷うのはよそう。


――いつの間にか眠ってしまっていて、いつも腕枕をしてくれる謙信の寝顔がすぐ傍にあって…ほっとした。


「謙信さん…ごめんね、もう、迷わないよ」


「それはどうかな？君は気が多いから」


眠っていたと思っていた謙信の瞳が開き、やんわりと微笑まれて抱き着くと、打掛ではなく浴衣を着せられていて、胸の中に抱き込まれた。


「僭越ながら私が着替えをさせてもらったよ。役得でした」


「も、もうっ」


乳香の香りで落ち着いて、改めて決意を口に乗せた。


「三成さんとのことは…もういいの。お園さんとよりを戻すだろうし、私は謙信さんが好き。…何も問題ないよね？」


「問題はないけれど…割り切れるの？三成を想って泣く涙を私は拭ったりしないよ」


――出会った時から謙信はそういう男だったので、桃は頷きながら飛び起きた。


「あのね、私のお姉ちゃんが弓道やってたの。うちのお庭にも的とかあったし、兵の皆さんの稽古…参加しちゃ駄目？」


謙信が目を見張る。


…女子が兵と共に訓練を？

何故かその発想がとても桃らしいと思って、謙信も起き上がり、桃の手を引いて天守閣へ上がるとすでに多数の兵が訓練に励んでいるさら地を指した。


「じゃあ私も一緒に行こう。準備をしておいで」


「うんっ」


少し元気を取り戻した桃の背中を見送り、そのまま部屋には戻らずに兼続の部屋にひょっこり顔を出すと…

兼続と共に三成の姿があって顔を強張らせたので、気付いていないかのような振る舞いで目の前で片膝をついた兼続の肩を叩いた。


「ちょっと兵たちの様子を見て来るよ。私の姫も参加したいんだって。弓が上手らしいよ」


「おおっ、さすがは夜叉姫！殿、拙者も馳せ参じまする！」


「…俺も行く」


――一瞬火花が散ったが…目を逸らしたのは三成だった。


「別にいいよ。言っておくけど私の姫に近付かないように。君たちの関係は終わったんだからね」


「…」


白黒はついたのか？

今だ微妙だったけれど――