優しい手①~戦国:石田三成~【完】
朝食も俯いたまま大急ぎで食べて風のように居なくなってしまった桃にとうとう三成は痺れを切らして大山に捕獲を命じると自室で待機していた。


…絶対、自分が何かしたに違いない…。


「俺は一体何を…」


呟いた時、俄かに喧噪が廊下を賑わし、大山が捕獲に成功したことを知った三成が背を正して筆を置く。


「もおっなんなの!私…三成さんに用事なんかないよっ」


「三成様がお呼びなのじゃ!早うお会いして来い!三成様、失礼致しまする」


桃が入れる位程に襖が開き、そこには正座して俯いたままの桃が居た。


「…入れ「」


「やだ。ここで聞くから…なあに?」


断固として拒否する桃の手を無理矢理引っ張って中に連れ込むとようやく顔を上げた。


…瞳には不信感。


やはり俺は何かを…何かを…


…桃の右の首筋に…三成が驚愕するものが在った。


「も、桃…」


「…?」


本人は気付いてないのか眉を潜めていたが…若干動揺しながら手鏡を渡すと、自身を覗き込みながら…顔色が変わった。


「…!!!!」


「桃、そ、それはもしや俺が…!?」


躾よく、素直に育った桃はこの瞬間咄嗟に嘘をつくことができずに真っ赤になると後ずさった。


「ち、ちが…っ」


「やはり…俺なのか。では…あの帯は……お、俺がそなたを脱がせ…」


「覚えてないならいいの!私も忘れるようにするからっ!」


――全てではないが、途切れ途切れに三成には昨晩の記憶がある。

それは夢だと思っていたのに、実際桃に仕出かしたことだとわかった途端――


三成の顔が真っ赤になる。


「み、三成さん?」


「俺は何ということを…!では…口づけも…そなたにしたのか!?」


口元を押さえて何とか赤い顔を隠そうとする三成に、桃も同じ位赤くなりながら頷いた。


「舌…入れられちゃった…」


「!!」


未婚の女子を襲うという非道を酔っていたとはいえ仕出かしたことが、三成の性格故にとんでもない結論に導いた。


「然らば…抱いてしまった責任を取らせてくれ!桃…俺の妻に…」


桃は、脱兎の如く逃げ出した。
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